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タトゥー業界に広がる技術格差

タトゥー業界には今後、大きな技術格差が生まれると思っている。

簡単に言うと、上手い彫り師と下手クソな彫り師、この間の距離がどんどん広がっていくのではないかと僕は予想している。

センスが良く、技術も高い彫り師がどんどん増えてくることは間違いない。しかしその一方で、相変わらず下手クソな彫り師が増えるのも現実だろう。


では、この二者間には何の差があるのだろうか。

まず、これからの上手い彫り師は、幼い頃から絵やアートが好きで、SNSで世界中の美しいものに触れてきた中、タトゥーという自己表現の手段に出会う。暇さえあれば絵を描いて過ごす。そしてSNSを開いては、世界中の素晴らしいタトゥーを時間が許す限り眺める。そんな、恵まれた環境で育った若者が彫り師を目指す。

一方で、幼い頃から絵なんて書いてこなかった悪ガキが地元のやんちゃな先輩の和彫りに憧れ、彫り師という仕事があることに興味を持つ。先輩の紹介で知り合った彫り師は羽振りも良さそうだし、何よりアウトローな雰囲気がカッコ良く映る。もちろんSNSもやってきたが、アートや美しいもの、素晴らしいタトゥーに触れてこなかった。そんな環境で育った若者が彫り師を目指す。

どうだろうか。わかりやすいように極端に書いたが、当たらずとも遠からずと言ったところだと思う。
そんな対極とも言える環境で育った人間が「さあ彫り師を目指すぞ!」となった時、スタートラインで既に差ができていてもおかしくはない。



一昔前でも技術格差はあったのか

一昔前は、彫り師を目指そうと思ってもタトゥーに関する情報を手に入れることすら難しかった。インターネットやSNSもそこまで発達しておらず、タトゥーの作品を見たければ、限られた雑誌などしか無かったのだ。
そしてその雑誌はどこにでも売っている訳ではない。コンビニの雑誌コーナーなんかに売っている訳もなく、そもそもその雑誌を探し出すところから始めないといけない。

さらに言うと、有料の雑誌なんだから基本的に紙面に掲載されているタトゥーの写真は記事広告だ。広告ということは、もちろん掲載料を払えば誰でも乗せることができる。
これが何を意味するかというと、タトゥーの技術が上手いからとか、作品が素晴らしいからとか、評価が高いからとか、そのようなものでは無いということ。下手くそだろうが、汚かろうが、なんであれとりあえずお金さえ払えば紙面に掲載されるのだ。
彫り師を目指す若者の多くはこのような雑誌を買って、ごくごく限られた狭い世界の中で、上手なもの下手くそなものをごちゃ混ぜに見て育つしかない。
指標がないので、何が上手で何が下手くそなのか区別もつかない。
そんな一昔前では、大きな技術格差なんて生まれようがない。

(もちろん一握りの素晴らしい彫り師と一般的な下手くそな彫り師の間には大きな技術の差があったことは間違いない)



技術の差は大きく開いていく

今後もアウトロー的で下手クソな彫り師は、ある意味ゴキブリ並みに生命力が強いので一定数は増え続けるだろうが、昔に比べると増加曲線は徐々に緩やかになっていくだろう。

そして、才能溢れるスキルの高い彫り師がどんどん増えていく。どちらかと言えば、「彫り師」と言うより「タトゥーアーティスト」と言った方がしっくりくる。
もちろんアウトロー的な彫り師を目指す人達にも現在には平等にSNSというものがある。とはいえ、彼らの多くはそのSNSを上手く使いこなすことができないのは、なんとなく説明しなくてもわかっていただけるだろう。

そして、アウトロー的な彫り師の技術は一昔前と変わらず横ばいもしくは微妙に上がる程度なのを尻目に、タトゥーアーティスト達はSNSを駆使し世界中から有料な情報を収集しながら技術をどんどん向上させていく。

技術格差が生まれると言ったが、アウトロー的な彫り師達は何も変わっていない。高いスキルを持ったタトゥーアーティストたちが一方的に急速に増え続けるだけなのだ。その差はどんどん広がる一方で、もはや埋めることはできないだろう。




あとがき

さて、散々書いてきておきながら言い訳みたいになるが、私は、アウトロー的なスタジオを否定している訳ではない。アウトロー的な雰囲気を持っていたとしても、衛生管理を徹底し、正しい知識と高いスキルを持ち、礼儀やマナーを守り、納税の義務を果たして真っ当に営業しているならそれはそれでいい。それがそのスタジオのカラーなんだから。

技術格差にしても、生まれるとは思うが本当は生まれて欲しくない。タトゥー業界全体がレベルアップして欲しいと真に願ってやまない。


最近特によく思うことがある。
今までタトゥーを入れなかった部類の人達がタトゥーを入れるようになってきている。言い方に語弊があるかもしれないが、ごくごく普通の見た目の人、いかにも真面目で気が弱そうな人、お堅い職業の人、どこにでも居そうな主婦やおじさんなど・・・

タトゥースタジオで仕事をしていると、もはやタトゥーは特別なものでも何でもなく、人々の日常に浸透しているんだと実感することがある。

タトゥー否定派の人達も、このような現実を受け止めて、少しでも偏見が無くなる社会に早くなって欲しいものだ。



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