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12万字の裏側で

私と宮野さんは、出会いから別れまでの期間が経った10ヶ月しかありませんでした。ですが私たちの間には、文字数にしておよそ40万字のやり取りがあり、そのうちの30万字は書簡のやり取りの間に交わされています。

約12万字で構成される『急に具合が悪くなる』は、その裏側にある膨大な言葉のやり取りから生み出されたものでした。

今回はそこでのやり取りから見える風景を2つだけ紹介したいと思います。

宮野ー磯野は、バッテリーではなく、対戦相手であった

すでに読んでくださった方は、宮野・磯野は同じチームの一員であり、宮野さんはピッチャーで、私がキャッチャーの役割であったと考えている方がほとんどだと思います。

確かに、8便における私たちの役割は明確にそうであり、かつ8便は大変重要な箇所なので、それを起点にイラストを描いてもらえて私はとても嬉しいのですが、それ以外の便では、むしろ私がピッチャーで、宮野さんがバッターという役割分担でした。つまり対戦相手の様相が強かったのです。

私たちは、毎回の手紙を出した後、将棋の感想戦の様なやり取りを毎回交わしており、「これは神回!」とか、「こう来たか!」とか、そういったことを話していたのですが、私の手紙を受け取った後の宮野さんの言葉は、「さて、どう打ち返そう」とか、「これはホームラン打ちたいところだけど、野心を出すと三振する」とか、明確にバッターを意識した発言をしていました。

対する私も、ピッチャーが気持ちよく投げられる様に構えるというよりは、「打ち返せるもんならやってみろ」くらいの勢いで手紙を”投げて”おり、実際にそういった言葉をかけたこともありました。そして皆さんもお分かりの様に、それは後半に行けば行くほど拍車がかかります。(参照 04:逆張りの問いと信頼

宮野さんのネーミングセンスが驚愕だった件

この本を読んだ方は、宮野さんの文章の美しさと力強さに圧倒されたと思うのですが、一方で彼女の名付けのセンスは、もう、本当に、なんと言ったらいいか、言葉を失うレベルでした。

例えばー

 8便(宮野):「魂の叫びアタック」

 10便(磯野):「磯野さんの魂ストレート」

・・・

なぜあれだけの語彙を持ちながら、よりによってこの組み合わせを選ぶのでしょう。「流れを作るのはいいが、固めるとダメな模様」とは宮野さんご本人の分析です。

とはいえ、未だに強烈に印象に残っているので、一周回ってものすごいセンスなのかもしれません。

ちなみに「アタック」はかなり気に入ったらしく、折にふれて「あたーっく」と言っておられました。(なぜここだけバレーボール?)

いや、あの内容を引っ張って、そんなにライトな文脈で使われても。困りますよ。宮野さん。

この様な理由があり、章のタイトルは全て私がつけています。

追記:読者との出逢いの中で

バッテリーのモチーフを使って重厚な書評を書いてくださった方がいらしゃいます。

まずは『呪いの言葉の解き方』の著者上西充子さん。

次に広島の蔦屋書店の書店員(?)さま。

どちらもバッテリーのモチーフをベースにしながら、想像力を広げてくださっており、いずれも私には考えつかなかったものです。本が著者の手を離れた後、それが今度は読み手の想像力に引き継がれ、著者では引き得ないラインがつながっていく。

本の力に感謝です。上西さん、書店員様、素敵な書評をお礼申し上げます。


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