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『急に具合が悪くなる』を読んで口をつぐまないで欲しい

とうとう発売が開始された『急に具合が悪くなる』。

すでに何人かの方から感想が届いています。
ありがとうございます!

ただ、その中で(すでに)ちょっと気になっているのは、「言葉がない」、「私ごときに…」、「何をいっても失礼になる」といった、この本を前にして自分は何か言える立場にないと口をつぐむ人たちの姿。

確かにこの本は「死」を扱っており、しかも著者の一人がすでにいないという状況です。こういう状況下において私たちは、社会的マナーとしても、言葉を控えることになっています。

だから、この本を読んで「私が何か言える立場にはない」と感じてしまうのは良くわかります。

でもこの本を読んでくださった・これから読んでくださる皆様にお願いです。
そういう形で言葉を飲み込まないでほしいのです。

その理由は、書簡の6便から7便、そして9便に記されています。
宮野と磯野が、立場やマナーを考え言葉を紡いでいたら、この書簡は決して生まれていませんでした。

ここにある言葉は、立場や社交辞令を超えたところで言葉を交わそうと互い誓い、そうでなければ見えないものを見に行こうとしたゆえのそれらです。

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宮野さんは書簡の「はじめに」をこう結びました。

”最後に皆さんに見える風景が、その先の始まりに充ちた世界の広がりになっていることを祈っています”

この本はすでに著者の手を離れています。

この本が新しい「始まり」を作り出せるかは、この本を手にとってくださった皆さんが、この本から感じてくださったことを、皆さんそれぞれの人生に照らし返して「語って」くださるかにかかっています。

皆さんが、圧倒されたり、立場を考えたりして、黙り込んでしまったら、この本はここで終わりです。

だから口をつぐまないでほしいのです。

私たちの社会では、死や重い病気に関することは、当事者以外はやすやす語ってはいけないことになっています。

でも皆さんは、この本において非当事者でしょうか?

私たちは、誰もが平等に「急に具合が悪くなる」可能性を抱えています。
そして例外なく死んでゆきます。

生きていれば必ず死に遭遇し、それを引き受け残された者として生きていかねばなりません。

その意味で、皆さんはこの本の立派な当事者です。

宮野さんは、「自分は立派な闘病生活を送っている」といった自慢話を、この本を通じてしたかったわけではありません。

むしろ宮野さんは、「別に自分だけが大変な思いをしているわけじゃない。自分と同じ病気の人はたくさんいるし、きっとみんな自分と同じ様にやっている」とよく言っていました。

宮野さんが死に立ち向かう自分を開示したのは、私が社交辞令を踏み越える問いを投げ続けたのは、「始まり」を作り出せる学問の言葉を世界に送り出したかったからです。

だから、この本を読んだら何か語ってほしいのです。

「自分はその立場にない」、「何か失礼があったら」なんて、そんな謙遜や遠慮はいりません。

もしこれを読んで圧倒されたと思うなら、何に圧倒されたのかを教えてください。

皆さんそれぞれにしか作り出せない、皆さんの人生に根ざした「始まり」の言葉を未来に投じてほしいのです。

お願いします。

このマガジンは、不思議な巡り合わせで同時期に出版されるダヴルノマの3巻本、『急に具合が悪くなる』(晶文社、宮野真生子&磯野真穂)、『出逢いのあわい:九鬼周造における存在論理学と邂逅の倫理 』(堀之内出版、宮野真生子)、『ダイエット幻想ーやせること、愛されること』(ちくまプリマー新書、磯野真穂) の紹介ページです。


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