熱くない

 画像検索したところ、こいつらしい。

 〔野生のすっぽん鍋〕

 日本経済が立ち直らなかったため、多くのすっぽん料理屋が廃業した。老舗の味が染み込んだ鍋は引き取り手が付かずに廃棄の憂き目を見、同時にほとんどの養殖池ですっぽんが放置された。

 九十九神となったすっぽん鍋が、脱走したすっぽんと出逢って意気投合し合体したのが由来。何が両者を惹きつけ合うのか、その生息数は少なくないと言われている。

 くつくつ煮える見た目に反して熱くない。一部の富裕層が今だに希求する若さ、健康、おいしいもの、そんな欲望自体まぼろしであったかのように冷めた目で眺める市場を映しているとも、熱くない鬼火と同じとも考えられている。

 なるほど。しかしそんな物の怪が白昼近所の貯水池の畦草を踏み分けて出てくるとは思いもよらなかった。鍋底に四肢としっぽが生えていてぶんぶく茶釜みたいだ。湯気の中にスープに浸かった甲羅が見える。熱くないというので、甲羅を押してみようと指を伸ばした。

 うん。熱くない。

 けど、噛むじゃないか。

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