気体状の学校

 息子は体より一回り大きいランドセルを背負い、上がり端に腰掛けて潮の香りが薄らぐのを待っている。海が凪いで風が途切れたところを学校が通るのだ。

 私は体が弱く朝起きられない。床の中から息子が準備するのを眺め、閉め切ったカーテンの上から漏れ入る光を眺めている。学校が差し掛かると光が大きく歪むのだ。息子は立付が悪い玄関の戸を上手に閉めて静かに出かけていく。私は息子の学校を見送ったことがない。

 目を覚ますと帰ってきた息子は机に向かって宿題をしている。おかえりと声を掛け学校の勉強は分かるかと尋ねると、困惑した顔で振り返り、勉強が分かるとはどういうことと聞き返される。床まで持ってきて見せてくれた宿題の紙では、見たこともない図形や記号が常時変形を続け、それを読む息子の声は私には聞こえない。

 息子は私を気遣い、大丈夫だから寝ているように言う。私は息子に従って仰向けになり目を閉じる。仕方がない。私は体が弱いのだから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?