百年と八日目の蝉

 呪いが解けた姫は、夕暮れの地表へ出て木の幹を登り、殻から抜け出すと折りたたまれた羽を伸ばし始めた。明け方になり羽が乾くと初めての飛翔をした。
 連日飛び回るも王子のものと思われる鳴声を聞くことなく、とうとう力尽きた姫は落下した。通りかかった小学生が地面でもがく姫に気付き拾い上げた。姫は指の中で更にもがいた。
「お父さん、見たことない茶色いセミが落ちてた。」
「お、それアブラゼミなんじゃない?昔一回だけ捕まえたことがあるよ。今よりはまだいたからな。おじいちゃんが子供の頃は素手でガシガシ掴める位低い木にも群がっていたらしいよ。」
「超レアってこと?写真とって自由研究完了ー。ラッキー。」
「待て待て、折角だから標本作ってみようよ。あと、どうして減ったのか調べたりさ。」
「えーっっっ」
眠りアブラゼミ姫と後にセミ王子と呼ばれる少年との邂逅だった。

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