やわらかな鉱物

とうとう来たかと覚悟して深夜の電話に出た。果たして夫の会社から。

「主任は落盤の前兆にいち早く気付き、作業員を退避させて対処にあたられました。主任おひとりが坑道に取り残され、現在救出に全力を尽くしております。」

現地行きの手配を頼んだ。荷造りは疾うにできている。

ビデオチャットした五日前、後ろめたいような申し訳ないようなそれでいて心ここにあらず、結婚前「今度の土日は会えないんだ。」と言う時に夫が見せた表情だった。

夫は父親の転勤で地方都市を転々として育った。母親はいないので、休みの日は父親の職場近くのデパートやビルで勝手に遊んでいたそうだ。

ある日壁の中に光る石を見つけた。

「指がすっと入って指を抜くと平らに戻った。滑らかでまったく抵抗無かった。金属だと思うんだけどそんなの無いし。もう一度見たいんだ。」

「誘ってもつまらないだろうと思って。」デートを断って探していた。

ついて行ってみると子供目線で石を探す旅は面白く、二人で周るようになった。

「君と会えてラッキーだった。」なんて怪しすぎる。たぶん夫は試掘を進める中何かを見つけ、仕事でも私でもなくそいつを取った。それは何?今から地球の裏まで聞きに行く。

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