赤いサファイア

 王妃の病死後まもなく、杣人が目睹した幽谷に暮らす隻眼の美女の噂が王の耳に届く。

 果たして逐電した寵姫であった。

 凛とした姿に往時のたおやかさは無いが、右目に嵌入した紅玉が昔日の寵愛の印、「ルビーの姫」の所以となった光彩を変わらず放っている。

 王は新しい王妃を寝室に誘い、ところがこう言う。

「君は誰?」

青く調光された部屋、水底のシーツから赤い目玉が王をじっと見上げる。

「僕があげたのは左目と同じ色のサファイアだった。君はそれを細工させて右目に入れたけれど、入れてみると何故か深い赤になって、気味悪いかしらと気にしながら、ルビーみたいねと気に入っていた。だけどこれはルビーだね。」

頬に触れた手を首筋へと這わせながら王は続ける。

「これがルビーだということは、あの人は生きている。そうだろ?いや、でも、もしかして君ではサファイアの色が変わらなくて、それでルビーを?まさかそんな」

赤い目玉は光り続ける。

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