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みんユルクロニクル#16 『ぼくらが作りたかったもの』

※前回までのお話はこちら。みんユルクロニクル#15『Closer to the Edit』


最後の1日

6月3日 火曜日 8:30 

 いよいよ公開前日。
 泣いても笑っても作業できるのは今日1日しかない。残った作業は大きく3つ。連絡のとれていない4名の方を追いかけ、素材の再送をお願いすること。その方々も含め、リストから抜け落ちた素材を編集に入れ込むこと。さらに、スタッフロールを完成させることだ。最初の2つをコンプリートするには獣さんからの連絡返答待ち、3つ目に関してはoomiさんにレイアウトを組んでもらわないと進められない。ちょっとしたもどかしさを感じつつPCを立ち上げると、獣さんから進捗のメッセージが届いていた。どうやら4名の方とは連絡がとれ、素材の再送待ちの状態らしい。そのメッセージを確認し、まずは安堵した。

 体調不良の獣さんは、この日、病院へ検査に行かなければならないにも関わらずきちんと対応してくれていた。コロナ真っ只中の状況で体調を崩され、不安極まりないに決まっているのに、申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、これで作業を進めることができる。

 さらに、oomiさんからもスタッフロールについてDMが来ていた。

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 oomiさんは、魂の参加者リストを元にエンドロールをレイアウトしてくれていた。その作業と平行しながら、ぼくの方では抜けていた方を編集に入れ込む作業を行なう。まだ全員の素材が揃った訳ではなかったが、とにかく作業を始めないと不安だった。先日までの編集室作業で、かなり繊細に組み立てが出来上がっているので、慎重にやらないと全体のバランスが崩れてしまう。それなりに気を使い、時間がかかる作業だった。

 さらに、すでに出来上がった編集に対して入れ込む人数を増やすには、当然のことながらカットを削る必要があった。1回しか登場していない方を削ってしまっては大変なので、参加者リストと照らし合わせながらの作業になる。参加者リストに関しては確認ミスのトラウマがあるので、何度確認しても不安が拭い去れない。最終的なチェックはぼく一人では心許ない。みんなでやる必要がある、と思った。

 午後になり、検査から戻った獣さんが、最後の素材を送信してくれた。これで全参加者の素材が揃った。…はず。この部分に関しては、何度確認しても不安は拭い去れないのだが、とにかく今は完成させることが先決だった。

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 oomiさんがエンドロールのレイアウトを送ってくれ、これも編集に組み込んでいく。ここの構成に関しては、まだ個人的には少し迷いがあった。特に、ラストのコピーまわりに関しては、どうにもしっくり来ず、試行錯誤を続けていた。コピーの文言、出す順番、手書きにするか打ち文字にするか、など、ほんの些細な調整を何度も繰り返していく。ただし、試行錯誤と言っても、組んでいるのはoomiさんなので、ぼくが迷えばoomiさんの作業を増やしてしまう。

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 ここから先、初号(試写用の完パケを、映像業界では慣例的に初号と呼びます。その手前、処理前のものをゼロ号、初号以降は修正を行う度に二号、三号と続きます。エヴァの一号機を初号機と呼ぶのはここから)に到るまでのスタッフ間でのやりとりをノーカットでお届けします。最後のタイトルまわりに関する、迷い、逡巡、葛藤と、偏執狂的なこだわり、それに付き合ってくれているoomiさんの辛抱強さと、それを微笑ましく?見守るみたけさん、獣さん、ちーかまさんの様子をお楽しみください。

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 やりとりの途中、20時には最後のカウントダウングラフィックが、まるで呼吸するかのように自然にツイートされる。正直、ぼく個人は、このへんの記憶が全然ない。自分の作業に集中していたからだ。

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 アーセナルの方、とは、アーセナル情報を発信されている、山中拓磨さんのことである。

 山中さんは獣さんの仲介で、サマリーシートの段階で英訳を買って出てくださった。我々スタッフ一同には、超ドメスティックにも関わらず、なぜかやたらと英語を使いたがる節があった。世代だろうか。山中さんにはその度に何度もサポートして頂いており、恐悦至極に存じている。山中さん、お世話になりました!山中さんは最後の最後にもう一度登場してピンチを救ってくれるのだが、それはまた後の話。このとき、最終のミックスダウン作業をしている(はずの)ちーかまさんから返答がある。

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 あっ!なんか妙なプレッシャーかける感じになっちゃってる!

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 このやりとり、もはや読んだだけでは理解不能かもしれない。なにをしていたかと言うと。オーラスのコピーワークと、その出し方、順番を細かく試行錯誤していたのだ。手書き文字にしたり、打ち文字にしたり、句読点やハッシュタグの有無を試し、一番メッセージがクリティカルに伝わる構成を考え続けていた。このやりとりに関しては、本当にoomiさんに頭が上がらない。あまりにも振り回しすぎて申し訳ないと思っていた。思ってはいたのだが、個人的にこの細かい調整を疎かにする訳にはいかなかった。

 本篇で、映像上で言い切れなかったことをコピーで押さえる手法自体は非常に広告的で、ある意味蛇足とも言えるのだけど。何度もツイートしたりここで書いてきたように、この映像が何十年後かに見られた時、2020年6月の空気をしっかりと本篇内に入れ込んで起きたかったのだ。

「いまは試合はおろか、自宅でステイすることを受け入れるしかない。それぞれの場所で歌うことしか出来ないけど、でも、いつかかならず、スタジアムに還って、みんなで本当のユルネバを歌おう。」

 参加者の方々それぞれが、なにを、誰を思ってユルネバを歌ったかはわからないけど、それだけは揺るぎない真実だと信じていた。いまも信じてる。

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 とはいえ、実際に文字組しているのはoomiさんである。それでも、辛抱強く、前向きに付き合ってくれたoomiさんが、最終的な美しい文字組を上げてくれる。

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 これで素材は揃った。さて、最後の組み立て作業だ。まずは音楽のトラックを、ちーかまさんが送ってくれたファイナルミックスと入れ替える。これで音の部分はオーケー。次に、獣さんが体調不良を押しながらやりとりしてくれたリスト漏れの参加者素材をチェックし、問題ないことを確認する。これに関しては、明日公開直前までダブルチェック、トリプルチェックだ。最後に、先ほどのやりとりを経てoomiさんが組んでくれた縦長のスタッフロールを編集の最後に組み入れ、スクロールのモーションを付ける。これで、初号が完成した。

 だが、不安になる。これで終わりでいいのか?見せちゃっていいのか?まだ触れるところがあるんじゃないか?もっと粘れるんじゃないか? 普段の仕事で、こんなことはない。自信を持って、出来ました!と試写をするのだが、不思議なことに、みんユルではこの体たらくだ。普段、たった一人で確認作業を行うことなんかない。何度も何度も再生し、アラを探す。大丈夫。でも、一応もう一度、そんなことを何度も繰り返す。大丈夫だな?大丈夫だよな?しつこいくらいの確認のあと、ぼくは思いきってムービー書き出しを行なった。

2020年6月4日 0:00

 午前零時、みたけさんが公式ツイートをした。

 レンダリングのあと、movファイルが生成された。最後にファイルに問題がないか確認した。よし、大丈夫。問題はなし。それをストレージに上げると、URLをみんなに宛ててDMした。

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 不思議なことに、それを展開した瞬間、自信がみなぎってきた。問題なんてない。傑作ができたぜ。みんな見てくれ。先ほどまでの不安が嘘のようだった。

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 ここだけの話、みんなのこの反応に、少し泣きそうになった。やってよかったな、まだ全然早いけど、そう思った。

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 これで映像は完成。さあ、あとはチェックだ。抜け落ち、漏れがないかをチェックする最後のフェイズだ。深夜ではあるが、一杯やって感傷に浸りたい気分だった。しかし、

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 このおふたりは、どこまでも、クリエイター根性炸裂である。酒を飲むのは公開のあといくらでもできる。とりあえず祝杯は先送りにして、このツイートのために出演者をカウントするだけにした。

 …とツイートしたものの、この1時間後にはちーかまさんから最終の音楽ファイルが送られて来ている。ちーかまさんの送られてくるfinalのファイルはfiこの時、こうなっていた。

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粘りすぎにより、fianalの後に終が付いてしまった。

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 さすがのこだわりである。

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 ぼくは、ちーかまさんからのファイナルミックスを編集に組み込んだ。これにて、ついに、とうとう完パケである…と思っていたのだが、当然今までの流れからおわかりの通り、結果としてこれでは終わらない。ぼくはこのfinal_終mixを入れ込んだ編集を見ながら、ひとつだけ思いついたことがあった。これをちーかまさんにどう伝えよう。そう考えながらも、とにかく参加者のリストが心配で仕方なかったのぼくは、編集に使った全カットを静止画で書き出す作業を行なっていた。最終のチェックをみんなで分担できるように、である。

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 その作業を終え、みんなに展開する。気づくと、空は白んでいた。この2週間で何度目の徹夜だっただろうか。正直に言って、この時に感じていたのは、ようやく公開に望める充実感と共に、なんとも言えない不安感だった。リストへの不安は相変わらずあったが、それ以上に皆さんの期待に、ちゃんと答えられているだろうか?ぼくらが作りたかったもの、作るべきものは、ちゃんと出来ているだろうか?

 この仕事を始めて20年近く。そんなことを感じた事はあまりない。疲れ切っていたし、頭の回転は鈍くなりつつあったが、なぜか眠ることができない。

 みんユル公開まで、あと15時間。ぼくはベッドの中でまんじりともできず、ただぼんやりとカーテンの隙間から朝日を見ていた。


【#16 おわり】


 しつこく引っ張って申し訳ありません。ラスト2話です!もう終わります!もうすぐ終わりますから!7月の頭から始めた、このみんクロ、約2週間のエピソードを語るのに、4ヶ月も費やしてしまいました。次回、いよいよ、ついに、みんユル公開です。みんユルクロニクル #17 『The DAY』どうか、もう少しだけお付き合いを!


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