続・生き方はふたつある
前編をまだ読んでいない方はまずはこちらからどうぞ。
「目標はもたずに、ひたすら目の前にあることに一所懸命取り組む。すると自ずと道が開けてくる、という考え方もあるんだよ」
「そうなんですか。でも、なんかそれじゃあ不安に思っちゃいそうです」
「ハハハ、そうだよな」
そう言っておっちゃんは一瞬、目を細めて窓の外を睨んだ。
「だけどな、逆に考えてごらん。今の自分が立てられる目標なんてたかが知れてないか」
「んっ・・・たしかに・・・」
僕は言葉を詰まらせた。
「自分のために目標を立てることが、自分の可能性に蓋をしてしまっていると考えることもできる」
よく考えてみればそうだ。将来の自分が今からは想像もできないところにいる可能性だってある。目標を持つことでかえって自分の可能性を狭めてしまうことだってありえるじゃないか。
僕の表情から察したのか、おっちゃんはニッコリと微笑んで話を続けた。
「そう。だから将来は良いようになるさと覚悟を決めて、とにかく今に集中する。そういう生き方も俺はアリだと思うんだ」
その話を聞いて「その生き方でやってみます」と、すぐには言えなかった。けれど、不思議と肩の力が抜けて、視界が晴れてきたように感じた。
「とにかく今に集中する、か・・・」
「そう。そういう考えを『而今(じこん)』と呼んで、昔の人たちは大切にしていたんだ。過去にも未来にも囚われずに、ひたすら今に打ち込む。そんな感覚をね」
「ありがとうございます。なんだかワクワクします!」
自分に新しい可能性が訪れたような気がして、だんだんとそれを試してみたい気持ちになってきた。
今に集中する生き方。
それが、おっちゃんが教えてくれた「もうひとつの生き方」だった。
ありがとう