店を家にする

いわしくらぶを「店」から「家」にした。

とは言ってもここに寝泊まりするわけじゃない。自分のなかでの認識を変えただけだ。「店だから〇〇しなきゃ」みたいな固定概念に縛られるのをやめようということだ。と言いたくなるくらい「店」というものに飽きてしまった。そして、そのかわり「店」よりも自由にできる場所という意味での「家」をやりたくなった。ひらかれた「家」をやりたい。

「家」はいい。キッチンもあれば、寝室もあるし、書斎やアトリエももある。そういう意味では、いわしくらぶは僕の家のアトリエ部分にあたる。これまでのいわしくらぶはお客さんがやってきて、その人たちを迎えて、満足して帰ってもらうための場所だった。だけど、これからはそうじゃない。ぼくがいて、なにかしらの創作活動に打ち込んでいて、その作業中に誰かが訪ねてきて、「せっかくきてくれたんだから」と飲み物と水たばこを提供する。そんな場所に変える。

書いていて思い出したけど、いわしくらぶはもともと自分の「表現活動の一環」だった。そのことをしばらく忘れていた。北海道でのんびり店をやっていたときはずっとそんな感じだった。東京にやってきてからはちょっと気張りすぎたのかもしれない。いつのまにか自分のなかでいわしくらぶを「仕事」として捉えるようになっていた。

いわしくらぶ創業後の2012年夏 地元の生活情報誌の取材を受ける様子

20代前半、俳優を志していた時期があって、そのときは舞台なんかの表現活動を通して社会を変えたいと思っていた。でも震災やその後の芸能界の動きを田舎から眺めていたら熱がスッと冷めてしまった。

「自分で稼いで、自分が自分のスポンサーとなって、表現活動を行わないと本当にやりたいことはできない」

そんな考えがぽっかり浮かんだ。

だから、あくまでもいくつかあるやりたい表現の一つとしていわしくらぶをつくったし、それ以外にも思いついたものは手当たり次第やってみた。

地元の情報発信番組(Youtube)もつくったし


モバイルハウスもつくったし


畑もつくった

もともとは「社会を変えたい」という思いだけが自分の真ん中にあった。それを軸にして、思いついたことを片っ端からやっていた。そのなかでいまだに続いているものがただいわしくらぶなだけで、この店を何十年もやっていきたいと思っているわけではない。チェーン展開して大きく儲けたいという気持ちもないし、この「家にする」というやり方も社会にハマらなければ畳んでもいいと思っている。社会を変えられるなら方法はわりとなんでもいい。

いまは文章を書くことが楽しい。ぼくの書いた文章を読んだ人が、まるでいわしくらぶを訪れたように感じてもらえたら本望だ。書く文章の種類はどんなのがいいんだろう。エッセイなのか、旅行記なのか、たまた小説なのか。また思いつく限りに試してみようと思う。そういう意味では初心に帰ったともいえる。

新しいことを始めたときは質より量だ。いまはとにかくできるだけ文章をたくさん書いてみよう思う。「評価されたい」なんて思わずに、とにかく勝手に続けてみる。ぼくのことだから、そのうち「やっぱ写真だ」とか「いや、出家する」とか「新しい店をつくりたい」とか、これまで書いていたことを全否定するようなことを言い出すかもしれない。それでもいい。とにかくいまは文章を書いて自分の考えを煮詰めたり、煮詰まったものを表現したりすればいい。

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磯川大地
ありがとう