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世界経済の潮流 2020年 Ⅰ

課題1<世界経済の潮流 2020年 Ⅰ>

第1節 アメリカ経済
 アメリカ経済は、世界金融危機後の2009年6月を景気の谷として景気回復を続けてきた。
 2020年2月に景気の山を迎えた。128カ月にわたる景気回復局面が終了。
 アメリカ経済の今後の見通しとリスク要因について整理する。
 1 アメリカ経済の動向
※雇用と生産が過去にない規模で減少し、影響が経済全体に広く及んだことから、景気後退と判断することが正当化されるとしている。
(1) 個人消費と住宅投資は大幅な減少から持ち直し
(個人消費は大幅な減少から持ち直し)
家計貯蓄率についてみると、感染症拡大への対策として実施された現金給付や失業手当拡充の効果により個人所得は増加した。一方、消費が減少したことから、20年4月に,1959年の統計開始以来最高となった。
(住宅着工は急速な減少から持ち直し)
住宅着工件数は、住宅ローン金利の低下等を背景に19年半ば頃から増加した。
(2) 企業部門は急速な悪化から持ち直し
(設備投資は下げ止まりの兆し)
情報機器投資はテレワークの普及を背景にプラスに寄与している。
(財輸出は大幅な減少から持ち直しの動き)
カナダ、メキシコ、EUをはじめとするその他の国・地域向けのアメリカからの輸出は、4月・5月に大幅な減少となった。各国での感染症の拡大による内需の縮小や貿易の停滞の可能性があるとみられる。
(鉱工業生産は急速な減少から持ち直し)
   ボーイングが、新型機の墜落事故後の運用停止を受け、20年1月から同機の生産を停止していた中、3月下旬から4月上旬にかけ、感染拡大に伴う緊急事態宣言を受けてワシントン州とサウスカロライナ州の組み立て工場を休止したことがある。他方、感染症拡大防止対策として進められたテレワークの普及に後押しされたことで、コンピュータ・電子機器における減少は小幅にとどまった。鉱工業生産の設備稼働率は、5月からは上昇に転じている。
(3) 雇用情勢は急速な悪化から回復
2020年2月にかけて全体として改善が続いていたが、3月以降、各州において休業措置や外出制限措置が採られ、経済活動が停止したことで、急速に悪化した。
(4) 物価は急速な低下後に上昇
3,4月において、感染症拡大の影響で物価は下落、経済活動の再開で上昇であった。
(5) 財政政策の動向
(財政支出)
感染症の拡大に伴って累次の対策が成立した。財政赤字は、20年4月以降、大幅に増加中。
(6) 通商政策の動向
感染症の拡大等を発端に両国間の緊張は再度高まっている状況である。
(i)対中国
(第1段階合意を巡る動き)
5月21日のUSTRと米農務省が共同で公表した声明では、ブルーベリーやアボカド等の農産品の対中輸出が可能になったことなどの成果が発表された。アメリカは中国に輸出したいが、感染症の拡大等で目標通りにいかず、米中関係の悪化が懸念される。
(感染症の拡大)
1月半ば以降で中国国内で感染症の拡大、3月にはアメリカでも感染症が大幅に拡大した。トランプ大統領は、中国への批判を高めた。アメリカ政府はWHOが中国寄りだということで、WHOへの資金の拠出を一時停止することを発表した。
(国家安全法の香港への導入に対する制裁措置等)
米・英・豪・加の4か国は、共同声明にて、国家安全法を香港に導入するという中国政府の決定に対し、懸念の意を表明した。特に、アメリカの金融システムの健全性を守るため、アメリカに上場している中国企業の慣行の調査について、トランプ大統領から表明がされた。7月14日に、アメリカで香港自治法が成立した。香港の自治を侵害した中国系の団体等に対して、制裁が可能となる法律である。
(中国企業との取引制限措置等)
ファーウェイを、アメリカの国家安全保障及び外交政策上の利益に反する個人・企業が掲載されたリスト追加した。特に、商務省は、中国企業5社(ファーウェイ、ZTE、ハイテラ、ハイクビジョン、ダーファ)の製品を使用する企業と取引することを、8月13日より禁止する旨を公表した。
(ウイグル人権法の成立)
6月17日にウイグル人権法案が成立した。人権弾圧した人物に、ビザの発給の停止や資産凍結等の制裁を科すことができるようになる。
(ii)対カナダ、メキシコ
(USMCAの動向)
NAFTAに代わる新協定であるUSMCAは、18年11月30日にアメリカ、メキシコ、カナダ間で署名された。その後、3か国すべて批准された。7月1日に発効した。
(アルミニウムに対する追加関税)
アメリカは、アメリカに輸入されるアルミニウムに対して、18年3月から、10%の追加関税を割賦していた。カナダ、メキシコに対しては、USMCAの批准を進めるために、関税適用除外とされていたが、除外によりカナダからの輸入が増えたため、10%を追加で割賦したが、輸入量の減少に伴って、同措置を撤回した。アメリカは、円滑に速やかに自国の関税を弾力的に調整可能、自由の国。
(iii)対欧州等
(デジタルサービス税導入を理由とした追加関税)
デジタル課税は、世界的に関心が高まっている。OECDで21年半ばまでに国際的なルールの制定を目指している動きがある。USTRの調査によれば、イタリア・オーストリア・トルコ・インド・インドネシアがすでにデジタル課税を施行している。
(日本においては、課税対象は巨大IT企業となる見込みであり、GAFAに対して課税される見通しであると言われている。)
(EUによるエアバス社への補助金を理由とした追加関税)
アメリカとEUは、航空会社への補助金がWTO協定に違反するものとして、WTOへ対応措置の承認を求めて提訴していた。19年10月14日、WTOがアメリカによる対抗措置を正式に承認したことを受けて、アメリカは、フランス、ドイツ、スペイン、英国から輸入される航空機及び同部品について10%→15%(引き上げ)、EU加盟国及び英国から輸入される乳製品やウイスキー当については25%の追加関税を割賦していた。
2 アメリカ経済の見通しと主なリスク要因
(1) アメリカ経済の見通し
20年のアメリカ経済は、感染症の拡大に対応するために、外出制限、移動制限、休業措置等により、成長率は前年に比べて大きく減少することが見込まれている。
(2) アメリカ経済の主なリスク要因
アメリカの経済政策不確実性指数は、20年3月以降に急激に上昇した。
(財政政策の動向)
  大規模な経済対策の実施と、経済活動水準の低下に伴う税収減などがあいまって、連邦政府債務残高は対GDP比で大きく高まる見通しとなっている。過剰な財政支出が長期金利の上昇をもたらすリスクを有している。
(通商政策の動向)
香港問題や、アメリカにおける中国企業との取引停止措置等により、米中間の緊張は再燃している。欧州に対する追加関税措置の拡大も実施・検討されているところである。
(企業債務の動向)
企業部門の債務残高対GDP比は2010年ころから増加傾向を示していたところ、感染症の拡大に伴って、20年1月~3月期に急上昇した。企業部門の債務の増加は、経済に予期せぬ負のショックが生じた場合の脆弱性を高めるといわれていることから、動向に注視する必要がある。


第2節 中国経済
中国では、20年1月半ば以降、新型コロナに伴う、生産活動の停止は中国経済に大きな影響を与えた。2月半ば以降、中国政府は感染拡大を防ぎつつ経済の正常化を進めており、景気は、厳しい状況にあるものの、このところ持ち直している。
1. 中国経済の動向
感染症の流行により、実質経済成長率は、19年10~12月期の前年比6.0%増から、20年1~3月期に同6.8%減と急減し、92年以来で初めてのマイナス成長となった。他方、資本形成の増加により、同率はプラスに転じ、中国国家統計局は、投資促進の政策効果に加え、工業における在庫増加を挙げている。4月~6月期には、景気対策としてインフラ建設が推進される中、建設業が最も大きく回復し、その他の産業でも大半がプラスとなったが、宿泊・飲食業では以前二桁台のマイナスとなっており、回復が遅れている。感染症流行が経済に大きく影響を与える中、2月以降中国政府は、影響を緩和するために、医療物資や生活必需品の生産・輸送・販売を行う企業や、飲食、宿泊等影響を比較的大きく受けている業種及び中小・零細企業への支援を中心に、金融、財政両面で対策を打ち出している。金融面では、金融市場への資本提供や再貸出等を通じた中小・零細企業への金融支援、財政面では、増値税の減税や社会保険料の企業負担分の減免等の措置が実施されている。5月には、全国人民代表大会が開催された。全人代で示された2020年の主要目標は、感染症対策を考慮した目標数値となっている。特に財政赤字(GDP比)3.6%以上としており、前年よりも0.8ポイント追加している。
(1) 個人消費
(個人消費の大幅な減少からは持ち直し)
 感染症により、統計開始(94年)以来初のマイナスとなった。品目別では自動車では大幅なマイナスに転じた。改善の動きがみられ、シェアが大きい自動車は、他に先立ち4月にプラスに転じた。先送りされた需要が顕在化されたことに加え、中央政府、地方政府が販売支援策を打ち出したことも回復を後押ししたとみられる。
(インターネット小売りは増加)
消費が全般的に落ち込む中、小売総額のうち、インターネット小売(財)は、在宅需要の高まりにより、年初来累計前年比で1~2月もプラスを維持し、その後も伸びを高めている。感染症が流行する中、企業が積極的にオンライン・インターネット販売を開拓したことや、特に食費や消費財のインターネット購入が増加したことが要因である。
(中央・地方政府による消費促進策)
消費促進策の具体策の一つとして、自動車について、都市で自動車のナンバープレート数を適切に増加させることが盛り込まれた。車両購入税の免除の2年延長などである。上海市では、3月から年末までにナンバープレートの発給を4万枚増加させることや、旧型ガソリン車の買換え補助金の給付等が実施されている。
乗用車販売台数は、20年2月の企業の休業措置とその後の操業再開の遅れによる部品供給の滞りによって生産が低迷し、また需要も著しく落ち込んだことから、20年2月には前年比81.7%減と、かつてない大幅な減少となった。5月にはプラスに転じた。複数の地方政府において、特定の消費活動に使用することができる消費券の配布による消費振興が実施されている。電子商品券の配布・週休2.5日制等。
(雇用・所得環境は急激に悪化)
20年2月に急激に悪化。都市部失業率は、19年末の5.2%から20年2月に6.2%に上昇した。雇用環境、所得環境ともに大きく悪化していることも、消費を下押ししているとみられる。
(消費者マインドは急激に悪化)
米中関係の進展のあった19年12月以降に高まっていたが、感染症の流行によの影響により、20年2月に大きく低下し、その後も低下傾向となている。
(2) 輸出入
(輸出は持ち直し)
6月以降はプラスで推移し、持ち直している。中国政府は、3月20日から1,464品目を対象に増値税の輸出還付率の引き上げを実施するなど、感染症流行による輸出企業への影響の緩和を図っている。リモートワーク等の増加でパソコンの需要が高まっている。防疫物質(マスク、防護服等)の輸出が大幅に増加している。
輸出の相手国、日本6.8%、EU20.3%,米19.8%
(3) 生産
(生産は持ち直し)
 20年2月は、感染症の拡大防止のために春節休暇が延長された。地方政府でも追加の休業措置が採られた。鉱工業生産は、19年12月の前年比6.9%増から、20年1~2月に同13.5%減と急減した。4月にプラスに転じ、7月同4.8%増まで持ち直している。自動車は、4月にプラスに転じ、その後も伸びを高めている。医薬品は、3月にプラスに転じた。鉄鋼等の素材関連でも堅調となっている。
(4) 固定資産投資
(固定資産投資は持ち直し)
固定資産投資は、企業の操業再開に伴い、3月以降マイナス幅は減少しており、7月には同1.6%減まで持ち直している。
(製造業投資は低迷が続く)
製造業投資は、7月時点でも同10.2%減と大幅なマイナスとなっている。
近年、中国政府が「新型インフラ」への投資を強化する方針を示している。「新型インフラ」とは、5G、IoTの関連施設、AI、クラウドコンピューティング、ブロックチェーンなど新技術の関連施設、データセンター等を例示されている。5Gについては、現在基地局が1週間に一万箇所以上のペースで増加している。
(インフラ関連投資は持ち直し)
インフラ関連投資は7月には前年比1.0%減まで持ち直している。インフラ関連投資が引き続き順調に持ち直していくことが期待される。
(不動産開発投資は持ち直し)
20年の全人代でも、引き続き「住宅は住むためのものであり、投機のためのものではない」との位置づけを堅持するとされている。不動産市場の安定化を維持する方針が示されている。中国政府は、20年年末までに700万戸の老朽化した集合住宅の改造を全面的にすすめる方針を示しており、不動産開発投資を下支えするものとみられる。
   (5)物価
     (消費者物価上昇率は低下傾向)
     20年の全人代で設定された3.5%前後の目標は大きく下回っている。この背景としては、主に食品価格の変動の影響がある。例えば、豪雨災害などの悪天候が豚肉の出荷や生鮮野菜価格に影響を与えている。
   (6)金融政策の動向
     感染症への対応として、早期から金融政策による対応が進められた。中国人民銀行は、公開市場操作を通じた資金供給、各種金利の引き下げ、預金準備率の引き下げも実施している。
     市中銀行の金融政策スタンスに対する評価は、緩和的な状態で高水準を維持している。起債手続きの簡素化など、社債発行を支援する措置が実施されていることも一因と考えられる。
2. 中国経済の見通しと主なリスク要因
(1) 中国経済の見通し
景気は厳しい状況にあるものの、このところ持ち直している。
20年の実質経済成長率は、19年の6.1%増から大きく低下することが見込まれているが、21年にはその反動もあり、大きく回復することが見込まれている。
(2) 中国経済の主なリスク要因
(国内外における感染症流行の状況)
世界各国でも経済再開の動きが始まり、世界経済は依然として厳しい状況ながら持ち直しの動きがみられるが、経済再開に伴い感染症の流行が再拡大する可能性もあり、外需の動向も引き続き不透明となっている。
(金融資本市場の変動の影響)
感染症の流行の動向や米中関係に係る不確実性は高く、今後の動向によっては、人民元安や資金流出圧力が強まり、景気下押し要因となるリスクも考えられる。
株価が7月急上昇し、厳しく規制されてきたハイリスクなシャドーバンキングのよみがえりがみられ、一部の資金がルールに反する形で住宅市場や株式市場に流入し、資産バブルを引き起こしていることなどを指摘されている。
(過剰債務問題)
過剰債務問題もリスクとしてあげられる。商業銀行は、20年1四半期に主に資産規模の拡大と収入比で経営コストが低下したことにより6,000億元の純利益をえている。他方、不良貸出のリスクの顕在化にはラグがある。今後、銀行は不良債権比率の上昇や不良資産の増加とその処理により大きな圧力に直面する可能性がある。
(米中貿易摩擦の動向)
香港をめぐっては、アメリカ以外の諸外国も国家安全法施行に対する懸念を示している。進出する外国企業からビジネス環境への影響を懸念する方向ももられ、将来的に外国金融機関撤退などの動きが生じる可能性もある。

第3節 ヨーロッパ経済
 ユーロ圏経済は、19年末にかけて、良好な雇用・所得環境や緩和的な金融政策を背景として個人消費等の内需を中心に緩やかな回復基調で推移してきた。
1. ユーロ圏と英国の経済動向
(1) ユーロ経済圏の動向
(景気は依然として厳しい状況にあるが、持ち直しの動きがみられる)
ユーロ圏の景気は急速に悪化し、3~4月にかけてきわめて厳しい状況に陥った。5月以降は各国の制限措置が段階的に解除されたことで、PMIは感染拡大前の水準に戻りつつあり、足もとでは持ち直しの動きがみられる。
(ドイツ、フランス、イタリア、スペインは依然として厳しい状況にあるが、持ち直しの動きがみられる)
ドイツでは、5月以降は制限措置の段階的解除が始まった影響で、持ち直しの動きを見せており、7月以降は中立水準を上回って推移している。
特にフランスでは、観光産業が盛んであり、感染症拡大に伴う入国制限の導入は外国人観光客を大きく減少させた。ドイツ同様、5月以降は中立水準を上回り、改善圏内に復帰した。
イタリアもフランスと同様に観光産業が盛んであることから、サービス業の落ち込みが大きい。5月以降は、持ち直しの動きをみせつつも、中立水準を上下している状況にある。
スペインについても観光産業が盛んであり、他国と同様の動きをみせている。
(個人消費は持ち直している)
ドイツやフランスでは従業員操業短縮制度や一時帰休制度の活用により失業率の上昇の抑制が図られているが、イタリアでは労働市場からの退出者の増加、スペインでは解雇による失業率の増加により、雇用情勢が悪化した。他方、5月以降の消費者信頼感は上向き始めるなど、マインドは持ち直している。
(輸出は持ち直しの動きがみられる)
各国の経済活動の再開を反映し、中国への輸出は4月から、アメリカや英国等への輸出は5月から前月比でプラスに転じており、貿易黒字も6月は171億ユーロに拡大した。
(鉱工業生産は持ち直している)
5月以降は各国の段階的な制限措置の緩和に伴い持ち直しており、5月は多くの国の生産が前月比でプラスに転じた。
(機械設備投資は下げ止まりの兆しがみられる)
今後の先行きは当面厳しい状況が継続するとみられるが、足もとでは持ち直しの兆しがみられる。
(失業率は上昇している)
ユーロ圏の将来的な雇用見通しをみると、改善と答える企業の割合が継続的に低下している
(物価は低下している)
OPEプラス会合における原油の協調減産継続の協議が整わなかったことにより原油価格が大幅に低下した影響で、エネルギー価格が急落した。
(財政政策の動向)
ヨーロッパ経済の回復に向けては、EUが包括的なパッケージを検討・立案している。他方、加盟国全体での債務の共通化は、財政状況が健全で規律を重視するオランダ等の国々の反発を招いている。
(財政ルールをめぐる動向)
感染症の影響により欧州の景気は極めて厳しい状況にあることから、20年3月に過剰財政赤字是正手続の一般免責条項の適用が認められ、一時的に財政ルールからの逸脱が可能となった。
(2) 英国経済の動向
(景気は依然として厳しい状況にあるが、このところ持ち直しの動きがみられる)
堅調であった雇用・所得環境も悪化の兆しがみられるほか、感染症拡大による外出制限が影響し、個人消費は、大幅に減少した。外需については、財輸出は感染症拡大に伴う世界的な経済活動停滞により大幅に減少したものの、財輸入も大幅に減少したことで、全体としてはプラスに寄与した。
(消費は持ち直している)
耐久消費財の先行きは引き続き厳しいとみられる。離脱後の英国・EU間の経済関係をめぐる不確実性も継続していることから、消費の先行きには留意が必要である。
(財輸出は持ち直しの動きがみられる)
EU離脱後の英国・EU間の経済関係をめぐる不確実性が継続していることから、本格的な回復には時間がかかる可能性がある。
(生産は持ち直している)
5月以降は、経済活動が段階的に再開される中で抑制されていた需要が顕在化し、持ち直している。
(民間設備投資は下げ止まりの兆しがみられる)
英国・EU間の経済関係をめぐる不確実性の高止まりを背景に、低迷を続ける可能性がある。
(雇用情勢は悪化の兆しがみられる)
感染症拡大が雇用にも負の影響を与えていると考えられる。こうした状況を踏まえ、BOEは、失業率が20年第4四半期に7.5%程度に上昇すると予測している。
(コア消費者物価上昇率はおおむね横ばい)
今後、英国政府による感染症に対する財政政策である飲食・宿泊等への付加価値税率引き下げや、外食支援が、消費者物価上昇率をさらに下押しする可能性がある。
(英国のEU離脱をめぐる動向)
諸々EUと対立していることから、具体的な進展が円滑なものとなっていない状況である。
2 ユーロ経済圏及び英国経済の見通しと主なリスク要因
(1) ユーロ圏及び英国経済の見通し
ユーロ圏の景気は、感染症の拡大に伴う世界的な行動制限・都市封鎖により、消費・生産・輸出が大幅に減少し、雇用・所得環境にも深刻な影響を与えている。
(2) ユーロ圏及び英国経済の主なリスク要因
(新型コロナウイルスの影響による景気後退からの脱却と財政問題)
EUおよび加盟各国は感染症の封じ込めと経済の立て直しのために大規模な財政出動を実施していることから、景気回復と同時に財政の健全性の確保も重要な課題となっている。特に、南欧諸国を中心とした財政状況が悪いギリシアや、感染者数の多いイタリアやスペイン等について、財政の健全性に対する信頼が揺らげば、金融市場を通じて他国に影響が伝播し、欧州全体の景気を下押しするリスクがあり、留意が必要である。

(欧米の通称問題の動向)
 欧州諸国によるデジタルサービス税導入の動きに対抗し、アメリカは、自国のIT企業を狙い撃ちにした措置であるとみなして強固に対抗する姿勢を示しており、7月に、化粧品やハンドバック等を対象とする13億ドル相当のフランス製品に対し、25%の追加関税を21年1月までに課すると発表した。EU・アメリカ間の緊張が一層高まれば、貿易に対する制限的な措置が両者で強化されることにより、欧州の貿易が下押しされかねないことに留意が必要である。
(英国のEU離脱後の通商交渉)
 英国は21年10月までに合意に至らない場合は、英・EU間のFTA交渉が打ち切られ、「合意なき離脱」に近い状態に至り、両国・地域間の関税障壁及び非関税障壁の高まりによる英国経済へのマイナスの影響が拡大する可能性に注意が必要である。

以上


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