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磯森照美のエッセイ集

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投稿したエッセイをまとめています。
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#タクシー

エッセイ | バスのリズム

仕事柄なのか、公共交通機関を使用することが多い。電車やバスに乗って目的の場所まで行くのだ。私は電車に乗っている時間も好きだが、バスに乗っている時間の方がより好きなのだ。 バスの揺れは心地よい。電車の場合は線路からくる揺れになるが、バスの場合は道路舗装の状態からくる揺れになる。舗装の起伏をタイヤが拾い、私の体を揺さぶる。 この振動がタクシーの場合は酔いやすいのだが、バスだと不思議なのだが酔うことはなかった。 終電を逃した私は駅前をフラフラしていた。正確にはまだ終電は来てい

エッセイ | 大丈夫にしました

終電を逃してしまった。ここからタクシーで帰れば1万円くらいかかるため、それだけは避けたい。 自宅がある駅までに2つのターミナル駅を経由する。最寄り駅から1つ目のターミナル駅まで行くための終電は異常に早い。ターミナル駅からの終電はもう少し遅くに設定されている。だが、そこまで行けなければ意味がない。 であればそのターミナル駅までタクシーで向かえばよいではないかと思うところだが、それは愚策だ。ターミナル駅付近の繁華街を抜ける時間を考えると終電にギリギリ間に合わない可能性がある。

エッセイ | 束の間に桜

タクシーを待つ間だけお花見でもしようと思い、コンビニエンスストアでビールを買う。近くの川沿いには桜並木があり、そこにはベンチや机などが整備されている。今年はお花見もできていなかったからちょうどいいなと自分を納得させる。 今日も今日とて深夜までの残業が続き、私が会社で優雅にコーヒーを飲んでいる間に終電の時間が去っていった。 タクシーを探してフラフラと歩いていたが、なかなか見つからない。大抵の場合は最寄駅に着くまでの間でタクシーと出会えるのだが、今日みたいに全く見つからないこ

エッセイ | 赤信号の徳

しくじった。今日はどこの会社も忘年会のようで、タクシーは西にある飲み屋街の方へ行ってしまっている。私のいるオフィス街へ走ってくるタクシーなんて1台もいないことが、アプリの画面上にありありと映し出されていた。 忘年会なんて羨ましいなと思いながら、今日も私は自分の暮らすマンションがある方角へと歩みを進める。 工事用車両や大型トラックが通り過ぎていくことはあるが、見事なほど1台もタクシーは通らない。 大きな交差点で立ち止まる。進行方向は赤表示だが目の前を通過していく車はいない

エッセイ | タクシーライダー

駅の前を歩いて通り過ぎる。深夜であるため構内に入ることはもうできない。 駅前にはバスロータリーもタクシーの待合所もないため、私は自分の家がある方向へ歩き続けるが、ここからだと15キロ以上も離れているので歩いて帰るつもりはない。 「タクシーを捕まえなければ」という使命感に襲われるが、深夜の中で1人歩いているのも悪くはない。 オフィス街でありながら観光地でもあるこの地域は、夜になればとても静かだ。出歩いている人なんて誰もいない。 少し西へ行ったところに飲み屋街があるため、