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磯森照美のエッセイ集

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投稿したエッセイをまとめています。
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#毎日投稿

エッセイ | お酒をのみたい

「いいかげんそういう飲み方をするのやめた方がいいよ」そういいながら友だちはビールを飲む。 「こういう飲み方をする時は人を選んでいるから大丈夫」私もグラスを口元へ移動させながらいい返す。 狭い店内の中で、小さな机に向き合いながら座っている。久しぶりに会った友だちからはいつものように注意をされていた。 「いつか事故だったり事件だったりに巻き込まれる前に正しておいた方がいい」 「いつも家までは帰れているし、ものをなくしたこともない。問題ないよ」私がそういうと友だちはわざとらしく

エッセイ | ありふれた声にあふれたり

よく作業中にラジオを聞いているのだけれど、これが作業の邪魔になっているのはよく分かっている。 掃除中や、洗濯物を干したり畳んだりしている時に聞くのにはちょうどいい。頭はラジオに集中し、手だけを機械的に動かし続ければいいのだから。 ただ、noteの記事を書いているときにラジオを聞くのは難しい。頭は記事を書くのに集中したいのに、ラジオの方に持っていかれてしまう。おもしろい話がラジオから聞こえると、自然に手が止まってしまう。 私はradikoでTokyo FMやJ-WAVEを

エッセイ | 光と影の話ではない

私は、世の中には「表の世界」と「裏の世界」があると思っている。「裏の世界」なんていうと犯罪が横行して危ない世界を想像してしまうが、そうではない。 「日なたの世界」と「日かげの世界」という方があっているかもしれない。 生活をしていく中で普段から目にするモノは「日なたの世界」のモノだと考えている。意識をしなければ気付かないモノは「日かげの世界」のモノだ。 「日なたの世界」のモノは人々からありがたがられ、感謝される。それがソフトであろうとサービスであろうと変わらない。ソフトを

エッセイ | 次の楽しみ

「27時間テレビが夏休みを連れてきて、24時間テレビが連れ去っていく」母が毎年言っている言葉だ。 1週間くらい前から日本テレビでは24時間テレビの宣伝が始まっていた。出演予定のタレントたちが笑顔で番組の内容についてを話していた。 「もう夏休みが終わるんだな」大人になった今では夏休みなんて言葉でしか触れることはできない。日中に日中に子どもの声が聞こえることは少なくなりそうだなと思った。 テレビの電源を入れると案の定24時間テレビが目に飛び込んできた。「いよいよ夏休みは終わ

エッセイ | つれてまわってくれる

いとこが運転する車の助手席に座り、私は流れゆく景色を眺める。 「こんなところにお店なんてあったっけ?」と私はいとこに尋ねる。 「このお店は随分前にできていたよ。知らなかった?」いとこは前を見たまま答える。 「そうだっけ? 帰省してもこっちの方にはあまり来ないから知らなかったかも」私はなんとなく過去の記憶をあさってみるけれど、やはり思い出せない。 地元の変化を知れるとなんだかうれしくなる。どんどん進歩していっているのが分かる。それとは逆に、昔からあったものがなくなっている

エッセイ | こっちの水がおいしい

地元に戻ると感じるのは「水がおいしい」ということである。 地元にいた高校生の頃に感じることはなかったし、地元から出ていった大学生の頃は水を飲む習慣がなかったためこの事実を知れていなかった。大人になり、味の付いている飲み物よりも水の方が飲みやすいと知った時に、地元の水がおいしいことに気付いた。 私が小学生の頃は夏になると関東から叔母の家族が遊びに来ていた。 私の地元は避暑地ということもあり観光客も多く、特に夏は人口が増加していた。普段なら見かけないくらいの車の量で、観光地へ

エッセイ | 私よ、ゲームに遊ばれるな

私はゲームが好きなのだけれど、あまりゲームをやらない。好きな作品の新作が出れば買うし、クリアもするだろう。けれど、そのゲームをとことんやり込むことはまれである。 休日になれば時間もあるためたくさんゲームを遊べる。ただ、気乗りしなければ絶対にやらない。それが好きなシリーズもののゲームであってもだ。 私はいくつかゲーム機を持っている。PlayStation5、Nintendo Switchや、Meta Quest2。それらをテレビの隣やソファの近くにセットしており、コントロー

エッセイ | 夜を歩く

夜の道を歩く。イヤホンを耳に付けて好きな曲を聴きながら前へ進む。最近のイヤホンはノイズキャンセリング機能が発達しているため、周囲の音を遮断し自分だけの世界に連れて行ってくれる。しかし、夜道でこの機能を使うのは危険だ。 後ろから自転車や自動車が来ているかもしれないし、もしかしたら不審者がつけてきているかもしれない。私はもしもの場合を考えて外音取り込み機能を使用して音楽を聴く。 歩いていると後ろから子どもの声が聞こえる。子どもと言っても中学生か高校生くらいだ。この時間まで出歩

エッセイ | 冷房が苦手だと気づく

私の部屋にあるエアコンはいつも28℃の設定で稼働している。暑がりの私にとってはこの温度がちょうどいい。以前はもっと低い温度設定にしていたこともあったのだが、知らず知らずのうちに体調が悪くなっていたのでやめたのだ。 体調が悪くなったのが冷房のせいだと当初は気付かなかった。その年の夏は25℃に運転温度を設定し、部屋はキンキンに冷えてホットコーヒーをいれてもすぐに冷めるほどだった。 職場や外出先も冷房の設定温度が低かったため、何かを羽織って過ごすこともあった。夏なのに暖を求める

エッセイ | 落とされる音に耳を澄ます

スマートフォンの画面に映る文字はきれいだ。かすれることはなく、余白も真っ白なのがいい。紙の文庫本を読んでいた頃のように、飲み物をこぼしてシミがついていることもない。 ただ、画面に映る文字数が少ないことはあまり好きではない。電子書籍が「あり」か「なし」かと話題に上がることも飽きてきたこの頃だが、まだ私はどっちつかずの状態でふわふわとしている。 初めのうちはトラックが向かいのマンションに入ってきたのかと思っていたが、その音は妙に長く続いていた。こんなに晴れているのだから雨なん

エッセイ | 夏祭りは感傷的になってしまう

今日はどこへ出かけても浴衣を着た人を目にする。駅にいても、電車の中でも、街を歩いていても。ちょうど夏祭りの時期なのだろうと思いながら用事を済ませていた。 ひととおりの用事が済んだ頃には夕方となっており、喉が渇いた私はカフェに寄ってコーヒーを買い、自分の家へ向けて歩いていた。本当なら電車に乗った方が楽なのだが、外の空気も涼しくなり始めたため「散歩しながら帰ろうか」と思えた。 あまり汗をかきたくないためコーヒーを飲みながらゆっくり歩いていると、前を歩く人が浴衣を着ていることに