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#2 終わりはあっけなく、そっけなく After Hours / The Velvet Underground

尻の青いガキが選ぶ名曲シリーズ、その2
♪After Hours / The Velvet Underground


インディーズ・ロックシーンに名を刻む伝説のバンド、
The Velvet Underground (ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)

彼等のサード・アルバム「the velvet under ground」(1969年)
セカンドアルバムまでの前衛的なサウンドとはまた違う、
穏やかで抒情的な曲が多く収録されたアルバム。
その最後を飾るのが、この"After Hours" です。

ルーのハスキーなダミ声がアルバムのほとんどを占める中で、
唯一、この曲だけが女性ボーカルとなっています。
これはヴェルヴェッツにてドラムを担当している
モーリン・タッカーによるものです。

素直で爽やか、
純真な少女のようなボーカル。
しかし、歌われる歌詞の内容はほの暗く、
現実世界との離別を描いています。

If you close the door,
the night could last forever.
Leave the sunshine out,
and say hello to never.

If you close the door,
曲のなかで何度も繰り返されるフレーズです。
MVの中でも繰り返し現れるこの動作。
これから起こる想念は、日常に組み込まれた小さな世界のなかで、ぐるぐると繰り返し浮かんでは消えてゆくことを象徴するような曲の入り口です。

いつものように朝を迎えることはない。
悲しいことのように思うけれど、場合によっては、とても気が楽になる考え方でもありますよね。

日常をやさしく消し去ってくれるような、穏やかな消滅。それはとても望ましいような、理想的な終末かもしれません。

Oh, someday I know
someone will look into my eyes
And say hello
you're my very special one

But if you close the door
I'd never have to see the day again

だれかが自分の眼を見て「あなたは特別な人だ」と語りかけてくれる。夢に描いてしまうような、素敵な光景ですよね。しかし、それだけ非現実的なことでもあるわけです。

「相手」が心の扉を閉めてしまえば、「私」の想いが日の光を浴びることはない。心の奥に沈んだ「私」は、永遠に暗闇の中に佇むのでしょう。

パーティー、地下鉄、灰色の雨……
さまざまな場面を彷徨いながら、最後に繰り返されるフレーズ

never have to see the day again.

「わたしは昼から逃れられるの」
「太陽を拝める日なんて来ないさ」

調べたところ色々翻訳がありました。確かに、文脈によっていろいろな意味を想起させますね。

ifより始まって繰り返されてきた日常は、映画のワンシーンのように想起されながら、この短いフレーズによって、あっけなく、そっけなく、終わっていきます。

…………

世界との別離を淡々とうたう歌詞とボーカル。その純朴さに、我々は救われるのかもしれません。

厭世的で、夢見心地。
不気味で、かわいらしい。
哀しくて、明るい。

このようなアンビバレンスのあわいのなかで成り立っているのが、"After Hours" であるように思います。



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