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8月1日


8月1日。

特別な日なのに、毎年ゆっくりと過ごせない。お盆前に済ませなければいけない仕事があったり、うだるようは暑さにヘトヘトになったり。
8月の入口は、いつもなにかと忙しい。

***

今日も遅くまで仕事をしていた。
そろそろ終バスを気にしなければいけない時間だった。
遠くバイクの唸る音を聞きながら、足早に歩く。
街灯の下に並ぶ住宅街はぴったりと戸を閉めて、
何があっても我関せずの顔で寝静まっていた。

意図せず日を跨いでしまった夜。せっかくだから寝る前に少しだけ、彼の詩集に触れたいと思った。撫でてやりたいと思った。こんな気分の時、活版印刷はとても良い。

ボコボコとした紙面の文字を眺める。
文字に目を落とす。
指が紙面をすべる。
ざらざらとした指腹の感覚が追う。

そうやって私は詩を喰べてきた。
あたうかぎり吸い尽くしてきた。

今夜も文字の匂いで、臓腑を満たす。

***

数時間後にやってくる日常も、きっと忙しなく過ぎていく。

やらなければいけないことが山ほどある。
いっそ朝なんて来なければいいのに、とこの頃よく思う。

ただ、やってくる一日を止めることはできない。
カーテンを開けば、網膜に刺さる夏のまっすぐな太陽。
窓の向こうから、耳鳴りのようにしつこい蝉の喧騒。

そしてふたたび、灼熱地獄の中に放り出される。なんだよ、さっき帰ってきたばかりなのに。まるで靴底が溶けるような暑さだ。

汗と絶望が吹き出す猛暑。過熱で停止したスマートフォンのように火照った脳みそを抱えて、きのう来た道をまた歩いていく。そんな時、ふと思うのだろうか。そういえば今日は、8月1日なんだと。

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彼はいつでも待っている。
求めればさえすればやってくる。
文字として生き続ける限り、
彼が私から離れてゆくことはない。

ただ、彼はやって来ない。
待てども待てども、やって来ない。

だから私から求め続けるしかない。
あなたが少しでも長生きするように、
そして私が長生きできるように。

人生のよき伴侶であれ。
永遠にやって来ない、あなたに向けて。

end.

※寝る前に勢いで書いたので、また直します。

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