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ごくん

「僕はベジタリアンなんだよ。肉や魚だけでなく、五葷ごくんも食べない」
 その人はそう言いました。
「ごくんって何ですか?」
 と私は訊ねます。
五葷ごくんはね、ネギ、ニラ、ニンニク、ラッキョウ、タマネギのことを言うんだ」
「どうしてそれがだめなのですか?」
「これらの野菜は臭いや成分がきつくて、陰性の気が強いのが特徴なんだ。だから体に負担をかけてしまうだけでなく、精神にも影響がある。
 ねぎは落ち込みやすくなって、腎臓を傷める。
 にんにくは気ままになりやすくて、心臓を傷める。
 にらは落ち着きがなくなって、肝臓を傷める。
 らっきょうは慾が強くなって、脾臓を傷める。
 たまねぎは怒りっぽくなって、肺臓を傷めるんだ」
「そうなのですか」
 と私は特にどうでもいいと思いながら聞いていました。

 しかしながら「ごくん」という言葉を私は初めて聞きました。
 それを忘れてしまわないように、私はその人と別れて歩きながら、その言葉を繰り返しました。

 ごくん、ごくん、ごくん。
 ごとん、ごとん、ごとん。
 あ、間違えました。
 ごくん、ごくん、ごくん。


 アパートに帰ると、私が遠距離恋愛をしている彼氏が来ていました。
「急に東京に出張になっちゃってさあ、時間ができたから来ちゃったよ」
 と言いながらあなたは料理をしています。
「一人暮らしにすっかり慣れちゃってさあ、料理が得意になっちゃったんだよ。今日は俺がごちそうするからね」
 と言って作った料理をテーブルに並べました。

 それにしても多いです。
 肉、魚、それにネギ、ニラ、ニンニク、ラッキョウ、タマネギ、がふんだんに入っています。
 ベジタリアンに何か恨みでもあるのでしょうか?

「いくらなんでも多すぎます。ギャル曽根じゃないんだから」
 と私は言いました。
「いっぱい食べて精力つけてよ。俺、もうすっかりたまっちゃってさあ。もうパンパンなんだよ。浮気もしないで自炊している俺の気持ちをわかってよ。もう、がまんがまんがまんだよ。禁欲生活だよ。俺はお前一筋。俺にはお前だけなんだから。だから今日は思いっきり抱かせて欲しい」
 あなたは目をギラギラさせてそう言います。

「いいけど、最初の一口は私の口の中に出してくれる?」
 と私はあなたにお願いします。
「いいよ、いいよ。いっぱい出るから。口の中に出すし、顔にかけてもいいし、お前の好きにするよ。だって俺はお前にメロメロなんだから」
 うれしいことを言ってくれますね。


 食事が終わると、私達は早速始めます。
 私はあなたのズボンのベルトを外し、ズボンをさげ、ブリーフをおろします。
 大きくなったあなたの肉棒がポロンと飛び出します。
 飛び出す絵本です。
 違います。

「あそこがおっきくなっちゃった」
 と一昔前のマジシャンの手品のようだと私は思いました。

 私はあなたの肉棒をペロペロと舐めます。
 アイスキャンディーのようです。
 私はあなたの肉棒を愛撫し、あなたは私の口の中に射精しました。
 私はそれを「ごくん」と飲み込みました。

 苦い、まずい。
 だけど「ごくん」好き。

 私はなんだかベジタリアンのあの人に勝ったような気分になりました。


おわり。



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