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Vol.171 遺伝子変異を調べるタイミングは早ければ早い方が良い?

*2024年2月15日発行のメルマガから転載

比較的暖かな日の多い今冬ですが、先月末は関西出張で滋賀県の大雪に遭遇し、びっくりしました。

この時期の関西と東京の往復は長年やってきており、関ヶ原付近の”雪国ぶり”はよく知っていましたが、あそこまでの勢いで雪が積もっているのを見たのは初めてでした。

ニュースになった名神高速道路の立ち往生を、ノロノロ運転の新幹線から目の当たりにして、これはえらいことだと思ったものです。

先日の関東地方の大雪の日も、東京の一般道が大渋滞になっていましたし、大雪が予想される日は、とにかく車で出かけることは控えた方が良いですね。

一つ、お知らせです。

「イシュラン皮膚がん」をリリースしました。

これで、乳がん、血液がん、婦人科がん、肺がんに続き、5つ目の領域です。引き続き、カバー領域を広げて参ります!!

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【記事1】 遺伝子変異を調べるタイミングは早ければ早い方が良い?

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遺伝子パネル検査の意義については、このメルマガで何度か取り上げてきました。

日本の保険制度の現状からすると、遺伝子パネル検査が保険適用されるのは、固形がんにおいて「他の標準的な治療手段がなくなった段階」で「1回限り」です。

しかしながら、それで本当に良いのでしょうか?

遺伝子変異がより早期の段階でわかったら、それに対応した治療を先に行うことが可能になります。

もちろん、後からわかっても遺伝子変異に対応した治療はできるわけですが、それによって生じる治療の順番の違いが、治療成績に影響しないと言えるでしょうか?

この点に関し、非常に示唆のある研究結果が出てきました。

 ■”Compromised Outcomes in Stage IV Non–Small-Cell Lung Cancer With Actionable Mutations Initially Treated Without Tyrosine Kinase Inhibitors: A Retrospective Analysis of Real-World Data

「チロシンキナーゼ阻害剤なしで初期治療された、治療可能な変異を有するステージIVの非小細胞肺がんにおける予後の悪化:リアルワールドデータの後方視的解析」(Journal of Clinical Oncology)

非小細胞肺がんは、がんを引き起こす遺伝子変異の種類が最も数多く見つかっているがんで、それに対応する分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害剤)も数多く開発されています。

その中で、早期に調べて遺伝子変異に対応した治療を受けている人と、最初は別の治療をして後から遺伝子変異に対応した治療を受けている人が混在しています。

そこで、全米の1000を超える医療機関から過去の治療データを集め、治療可能と考えられる遺伝子変異(EGFR, ALK, ROS1, BRAF, MET, RET, HER2, NTRK1/2/3)が見つかったステージ4の非小細胞肺がん患者510名を、次の3群に分けて分析したのが、上記の研究です。

・グループA:遺伝子変異の結果が判明してから、適合する分子標的薬で治療開始した群(379名)

・グループB:遺伝子変異の結果が判明する前に、化学療法もしくは免疫チェックポイント阻害剤の治療を開始し、35日以内に分子標的薬の治療にスイッチした群(47名)

・グループC:遺伝子変異の結果が判明する前に、化学療法もしくは免疫チェックポイント阻害剤の治療を開始し、35日以内に分子標的薬の治療にスイッチしなかった群(84名)

次の治療もしくは亡くなられるまでの期間(TTNT)と、全生存期間(OS)を比較してみたところ、

<次の治療もしくは亡くなられるまでの期間(TTNT)>

・グループA:10.5ヶ月

・グループB:5.5ヶ月

・グループC:6.4ヶ月

<全生存期間(OS)>

・グループA:28.8ヶ月

・グループB:21.7ヶ月

・グループC:15.3ヶ月

と、いずれもグループAに対し、グループBもCも有意に劣る結果となりました。

今回の研究は、いわゆる後方視的な過去の結果を振り返ってのもので、エビデンスレベルとしては落ちるのですが、それでもこれだけの差が出たということは、「治療の順番の違いは治療成績の差として出る」可能性を強く意識せざるを得ません。

本テーマ(遺伝子変異をどのタイミングで調べるべきか)は、今後もがん治療全体の中で非常に重要な論点であり続けると思いますので、追いかけて参ります。

※本項執筆時点(2024年2月15日)で、筆者は遺伝子パネル検査メーカーの株式を若干数保有しています。

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【記事2】抗肥満症治療は血圧低下にも効果あり:米国発の2本の論文

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昨年12月に発行したメルマガで、「世界待望のダイエット薬が日本にも登場。保険診療の是非は?」という記事を書きました。

その中で、「体重がうまくコントロールできれば、糖尿病・高血圧・高脂血症等の他の疾病の治療にかかる費用を将来的に削減できる可能性も高いです」と書きましたが、それをサポートするようなデータが立て続けに出てきました。

 ■”‘It’s a new era’: Weight-loss treatments significantly lower blood pressure, studies find

「新時代だ:減量治療が血圧を有意に低下させることが研究で判明」(CNN)

上記のCNNの記事で2本の研究結果が紹介されています。

1本目は、チルゼパチドという、メルマガ内で紹介したセマグルチド(ウゴービ)と同じ、GLP-1受容体作動薬と呼ばれる種類の薬の試験結果です。

BMIが27以上、かつ2型糖尿病ではなく、正常な血圧もしくは治療により血圧コントロールされている600人で、チルゼパチド投与前と投与9ヶ月後の収縮期血圧(”上”の血圧)を比べたところ…

・5mg投与群は、7.4 mmHg

・10mg投与群は、10.6 mmHg

・15mg投与群は、8.0 mmHg

の血圧減少が見られました。

降圧剤1剤で下げられる血圧は10-15mmHg程度と言われていますので、そこまではいかないにせよ、これは喜ばしい”副作用”と言えるでしょう。

もう1本は、「減量手術」に関する研究です。

肥満症かつ高血圧の患者さん100名を、「減量手術+降圧剤投与」群と「降圧剤投与のみ」群に分け、5年後の経過を見て両者を比較したところ…

・BMI:28 vs 36

・降圧剤の投与数を減らすことができた人の割合:80% vs 14%

さらに、「減量手術+降圧剤投与」群で高血圧が寛解となった人が半数いました。

ということで、n数が少ないためそこまでハイレベルな研究では無いとはいえ、減量手術が血圧低下に結びついていることが伺える結果です。

肥満と血圧との関係は、神戸循環器クリニックが書かれているブログ「肥満により高血圧が起こるメカニズム」に詳しいですので、気になる方はチェックしてみてください。

※本項執筆時点(2024年2月15日)で、筆者はセマグルチド、チルゼパチドに関連する特筆すべき利益相反はありません。

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