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全自動PCR検査機を医療機関に配備しよう #コロナ政策千本ノック

医療崩壊を防ぐための政策パッケージ

過去2回、医療崩壊の現状と、その解決策について書いてきました。

初回は、救急搬送が遅れている問題について、救急車に高精度の抗原検査キットを配備するという解決策を示しました。

第二弾では、宿泊療養者・自宅療養者が事実上医療からアクセスを拒否されているという問題を指摘し、オンライン診療を必須化すべきと提言しています。

今回、第三弾ではさらに本丸に斬り込みます。コロナ患者の病床をいかにして増やすのかという問題です。

問題 コロナ患者の病床が増えない

今国会において政府は、新型コロナウイルス患者の病床確保のために感染症法を改正する見通しです。医師らに患者受け入れを勧告し、正当な理由なく応じない場合は病院名を公表できるようにします。

その背景には、とりわけ民間病院でコロナ患者受け入れが進んでいない現状があります。厚労省によれば、急性期病院のうちコロナ患者の受け入れが可能な病院は公立73%、公的84%に対し、民間は30%にとどまっているのです。

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また政府としては、コロナ病床確保にインセンティブを与える方向性です。厚労省は、1月の緊急事態宣言発令をうけ、新型コロナウイルス感染症の重症患者向けの病床を新たに確保した病院に対し、1床あたり1950万円を補助すると発表しています。

菅首相は1月16日、大木隆生・東京慈恵会医科大学教授と面会し、医療機関に十分な財政支援を行い、医療従事者の処遇を大幅に改善することで、医療体制は大幅に強化できるという内容の提言を受けました。

(大木)「医療崩壊ということばが盛んに言われているが、97%、96%のベッドがコロナに使われず、一般の医療に使われており、余力が日本にはある。民間病院が、商売として『コロナをやりたい』と思うぐらいのインセンティブをつければ、日本の医療体制は瞬く間に強化される。菅総理大臣は『久しぶりに明るい話を聞いた』と言っていた」

確かにインセンティブ自体は間違っていません。しかし、本当にそれ「だけ」で本当に医療体制が強化されうるのでしょうか。

原因 クラスタ発生を病院が恐れている

多くの病院がコロナ患者を受け入れない原因は、単なるお金の問題ではないように思われます。大多数の診療所や病院が、微熱があるなどコロナ陽性である可能性が少しでもあれば、診察や救急搬送を拒否する傾向があることは、皆さん経験されているとおりです。

その背景には、恐怖心があります。

COVID-19が何よりも怖いのは、無症状者やごく軽症であっても、感染可能性が否定できないことです。病院がコロナ陽性者を受け入れると、知らない間に医者や看護師や他の患者に感染させる可能性があります。そして、その人が見えないスプレッダーとなって、クラスタを発生させてしまう。そうなると、病院経営上、あまりにも大きなダメージになるでしょう。

この恐怖心は、実例と根拠に基づくものです。インセンティブだけで陽性者を受け入れれば、実際に院内クラスタが発生しうるのです。そうなれば、医療崩壊に直結します。

つまり、コロナ病床を増やすためには、インセンティブ設計と同時に、クラスタ発生を防ぐ「備え」を政府が支援する必要があるのです。

解決策 医療機関に全自動PCR検査機を配備しよう

コロナ患者を受け入れつつ、院内クラスタ発生を防ぐためには、何が必要なのでしょうか。

病院側の感染症の知識や、院内の導線の変更、防護服なども必要でしょう。

何よりも重要なのは、高精度かつ迅速に、陽性者と陰性者を見分ける機能です。それを実現するのは、PCR検査以外ありません。

院内クラスタの発生を防ぐためには、最低でも週2回のPCR検査は必要です。そして、陽性者が見つかれば、すぐに隔離し、それ以上の感染を防がなければなりません。

問題は、時間です。厚労省のデータによれば、現在のPCR検査の圧倒的多数は、民間検査会社が行っています。医療機関での検査はだんだん増えつつありますが、2割に至りません。つまり、大多数の行政検査の場合、医師が診察して検体採取してから、わざわざ民間検査会社に検査を委託しているのです。

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本来、PCR検査自体は1時間から数時間程度で終わるものです。しかし、検査を外部委託するとなると、献体を採取してから搬送するまでのタイムラグで1日かかります。そして、検査待ちなどでさらに1日とか2日、陽性判明まで2-3日ほどかかります。

新型コロナ感染症対応において、PCR検査は最低限の装備です。その最低限の装備を、いちいち外部に「レンタル」しにいく。この現状を変え、現場でPCR検査を自由に使える体制を構築することが必要なのです。

そこで、政府が全額費用を出して、全自動PCR検査機を医療機関に配備していきましょう。機械の他に、試薬やチップなどの消耗品や、あるいは人件費なども助成対象とすべきです。

なぜ「全自動」かというと、高度に訓練された検査技師が不要だからです。

規模に応じて、ロシュ社のCobas8800のような1日4000件できるものから、島津製作所のAutoAmpのように4件/回の検査できるものまであるので、病院の規模に応じて配備すれば良いでしょう。

幸いなことに、これらの機械の一部は、日本国内で製造されています。そこに政府が補助金を注ぎ込んで、生産ラインを増強した上で、政府が買い上げます。

まず、現在コロナ対応をしている病院を優先的に貸与します。確保量に応じて、これからコロナ対応する病院、感染拡大地域の診療所などに戦略的に配備していきます。

医療機関は、貸与されたPCR検査機をどのような用途で利用できるでしょうか。

①医療従事者の週2回の陰性確認
医療従事者には、週2回の検査が必要です。幸いにして、プール検査が行政検査として認められたので、この用途には最適だと思われます。

②入院・手術・出産前の検査(2回)
院内クラスタ発生を防ぐためには、入院前の検査はどうしても必要です。もちろん、タイミングによっては偽陰性となることもありうるので、入院後数日たってからの再検査は必要でしょう。

③患者の診断
言うまでもなく、患者の診療にも使えます。COVID-19は病態も多様だと言われています。血栓が発生する病気なので、心筋梗塞や脳梗塞なども引き起こすと言われています。逆に言えば、これらの病気であっても、陽性の可能性が否定できないのが新型コロナの怖さです。
気軽にPCR検査ができて、迅速に結果が出て、必要があれば即座に保護できる体制が取れることは大切です。

④エッセンシャルワーカーの検査
もちろん、福祉施設などのエッセンシャルワーカーの定期検査などにも利用可能です。

結果予測 クラスタ発生予防、コロナ患者病床拡大、そして感染抑制

この政策が、どのような結果がもたらすのか予測してみましょう。

①院内クラスタ発生予防
医療従事者の定期的な陰性確認、そして入院患者への複数回の陰性確認によって、院内クラスタが予防できるか、少なくとも、ごく小規模に抑えることができます。
新型コロナ対策の屋台骨たる医療機関を、現場での検査態勢構築によってしっかり守ること。これがまず、何よりも大切なのです。

②コロナ病床が増え、医療崩壊を防げる
医療を守れる体制を国費で構築できるならば、政府が進めているインセンティブ設計とあいまって、コロナ患者を受け入れる病院も増えてくるでしょう。
病床が増えれば、やむを得ず自宅待機している人も病院に入ることができるでしょうし、入院患者がコロナ陽性が発覚したから救急車で自宅へと搬送されるという悲劇も減るはずです。

③患者の重症化と感染拡大の抑止
医療機関に全自動PCR検査機が配備されれば、診断・検体採取から結果が出るまでの時間は1-2日短縮できます。陽性が判明して、病棟に空きがあれば、即日入院もできる可能性があります。
COVID-19においては、この時間短縮が何よりも重要です。その間に重症化を防ぐこともできます。また、結果待ちの間に、買い物や公共交通機関の利用によって、あるいは家族に感染させる可能性も大幅に下がります。

結論 医療機関への全自動PCR検査機配備は、ゲームチェンジャーになりうる

現在、原則として行政検査としてのPCR検査は、医師を通す必要があるわけです。しかし、その医師がさらに民間検査会社などに検査を委託している。その不自由さとタイムラグが、社会全体における検査体制の大きなボトルネックになっているのです。

他のCTやレントゲンなどと同様に、現場で診断できるような体制へと変える。これは、コロナの検査・保護体制のゲームチェンジャーになりうる政策です。

最近、PCR検査体制を大幅に拡充してコロナを封じ込めよう、と主張する人が増えてきました。その中には与野党の政治家もいて、それは正しい方向性です。しかし、政治において大事なことは、「どのようにして検査を拡充するのか」、その現実的な政策です。

医療機関への全自動PCR検査機配備は、その大量検査体制を実現するための布石です。

この布石を打ち終わったあと、どのように大規模検査を推進していくのか。

我ながら、ちょっと面白いアイディアを持っていますので、ぜひ次作にご期待ください。




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