石積みキャラバン3 愛媛県明浜
外泊から北上し、明浜の狩浜という集落に来た。トンネルを抜けてくねくね道を下ったところに、入江の漁村とその背後の山肌に広がるみかん畑が見えてくる。トンネルが開通する前は山を越えることも一苦労だったらしい。
愛媛県の西の沿岸部は複雑な地形の海岸に囲まれた穏やかな海が多い。そして集落の背後に山が迫っており、魚を獲り、穀物や桑をつくることができた。
明浜は柑橘の栽培が盛んだ。美味しいミカンをつくるには乾燥していて日当たりがよく、栄養を与えすぎないことが重要だ。明浜には3つの太陽があり、そのおかげでミカンが美味しくなると言われている。1つ目が空の太陽光、2つ目が海に反射する太陽光、3つ目が石垣に反射する太陽光。明浜は石灰岩がよく採れ、石が白いため、太陽光がよく反射する。石灰岩の石切場も近くにあり、採石が主要な産業のひとつだった。
明浜の狩浜集落も昔は半農半漁で生活していた集落だ。入江毎に家が集まっている。岬になっているところにはしらすをつくる工場が多い。泊めさせていただいたところも道路の向かい側の家がしらす工場だった。生のしらすからつくる無塩汁というお汁をいただいたが、とても美味しかった。また、ひじきも美味しかった。
海岸線に建っている防潮堤は10年前にできたものらしく、それができる前は家の2階の窓から釣り竿を垂らして釣りができたらしい。
生活をするための自然環境が恵まれていて、その上ミカンや漁業など、短期間で集中的に稼げる産業があり、Uターンする若い人が多くなっている。石積みをしているところも息子さんが跡を継いでやっていらした。また他にも子どもが明浜に帰ってきてミカン農家を継いでいる家がちらほらあるとのこと。海が近く柑橘畑があるところは、一次産業を生業とするのに適していると感じる。柑橘は葉物野菜のように毎日手入れをしなくてもよいし、収穫時期の年末は忙しいが、それ以外の時期はそんなに根を詰めて世話をしなくてもよい。海が近いところは場所によっては単価の高い海産物が採れる。しかも海産物は養殖でなければ、ひょいと釣り上げるだけでよい。今の時代は柑橘畑や船など基盤が整えられているのでタイミングが合えばたくさんの初期投資がなくても始めることができる。考えないといけないのは一つの一次産業だけで複数人の生計を立てるのは難しいということだ。また会社組織にすると稼げる時期が限られているのに毎月給料を支払わないといけない。しかし忙しい時期が集中しているので複数の仕事を組み合わせれば十分食べていける。しかも借り手がいなくて困っているので雇われなくてもできる。あとは信頼と継続。
石積みは2箇所修復した。その内1箇所はお世話になった方の知り合いのミカン農家さんの農地で、5人で1日かけて幅2.7m高さ2.1mの石積みを修復した。先日の雨で崩れて直したかったが近くに技術を持っている人がおらず、コンクリートブロックで新たに擁壁をつくろうか迷われていたそうだ。その場合、車が走れる下の道からかなりの傾斜を登って材料を運ばないといけないので大変な労力が必要になる。崩れた石をそのまま使うのがどの観点からも合理的だったと思う。ただし、積み直すときは、奥行きが長くなる方向で石を置くので、積み石が少なくなるので補充しないといけない。今は石灰岩を切り出していないので、どこかから持ってくる必要がある。土木工事で使う砕石はまた石の質が違うし、近くの土建屋さんが持っている石を買っても違う地域の石になってしまう。結局、どこかに置いてあった花崗岩を使うことになった。石をどのように確保するかはいつも問題になる。
石灰岩は摩擦力が高く、すっと石を置くことができた。面を決めればすぐに石を置くことができた。平地が狭かったのでコンテナとあゆみ板で足場を広くして石を積んだ。ミカン畑では木が植わり、コンテナが運べる幅があれば作業に支障がないが、崩れた石積みを放置しておくと大雨が降ったときに大規模に土砂崩れを起こす可能性が高くなる。
石積みが高かったので石の面を揃えるガイドは、横糸ではなく、縦糸にすることにした。後日、豪雨災害で大規模に崩れたところが何箇所があると聞き、石積みを修復しがてら見に行った。重機が入れないので修復することが難しく、放置するところも出てきそうだ。そこまで手間をかける必要性があるのか。。どこの中山間地に行っても出てくる問題だ。その空石積みは修復する価値があるのか?石は、土地とともに生活するための基盤として必要だと思う。大半は私的なものだが、公的な価値もある。ただ、ミカンを売って生活するための基盤だけでなく、土砂災害を防止する、収入につながる景観の価値をつくる。地域にとって、県にとっても公的な価値があるように思う。
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