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農具と野鍛冶 其の一


農具は種類が豊富だ。土をほぐし、堀りおこし、畝をつくり、下に流れた土を上にあげる作業それぞれに道具がある。土質、傾斜、使い手の身体によっても微妙に形や材料が異なる。このように用途や使う人によってカスタマイズされる道具は野鍛冶屋さんにつくってもらっていた。使いやすさによって農家の生活が左右されると言われるほど道具は大切だったので、野鍛冶の役割はとても大きかったという。それだけ重宝されていたものだから、野鍛冶は儲かる仕事だった。農家の1日仕事が大工の朝飯前。大工の1日仕事が桶屋の朝飯前。桶屋の1日仕事が鍛冶屋の朝飯前と言われる地域もあった。ただ、野鍛冶屋さんは昔たくさんあったので、農家から割に合わない安い値段で買われていた。1日に1つしかできないような道具でも6千円の値段がついていたりする。商売ができる値段をつけられなかったことも野鍛冶屋がなくなった理由の一つだろう。

現在では耕運機と規格化された農具を使うことが多いが、耕運機が使えないような場所だと道具の大切さを実感することができる。例えば徳島県のつるぎ町。驚くほど傾いた土地で畑を耕している。最も傾斜しているところは斜度が40度もある。立っているだけでもふくらはぎが痛くなる。

傾斜が急すぎて耕運機が使えないため、土を耕したり、下に流れた土を上にあげるために農具がメインの道具として現役で活躍している。

つるぎ町の農具は片手で使える小さな道具が多い。

「ささば」・・・むね(真ん中の出っ張っている部分)がついてると土がつきにくい。

「みつ熊手」・・・片手で使うから柄が細くて短い。

つるぎ町に一軒だけ残っている野鍛冶屋。使っている道具はシンプル。コークス、送風機、金床、ハンマー。御本人も本職ではなく、土木の仕事をしていたときに学んだものだそう。ちなみにここの野鍛冶屋さんは溶接も使う。

使いやすい道具をきちんとした動きで使うと、身体は疲れるが、驚くほどたくさんの作業ができる。以前、高開さんの家で明治時代につくられたツルハシを見せてもらった。とても重くて、一振りで土を大量に掘り起こすことができる。耕運機の購入費、維持費、燃料費を考えると道具を使うほうがよほど安いだろうと思う。

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