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ヴェルナッツァの農業や石積みなど

ヴェルナッツァというイタリア北部沿岸の小さな町で石積みを習った。ヴェルナッツァは人口約900人で(地元の人によると実際には200人くらいだそうだが)海に面した岩盤の上に立っている要塞都市だ。

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千年以上前から北アフリカなどからくるサラセンの海賊の襲来に備えるための防衛拠点であり、その後はジェノバ共和国がリグーリアを征服する際の重要な拠点となっていた。海賊の襲来はかなり脅威であったようで、この近辺では各町から一月に30人を供出し、見張りの塔で24時間監視していたらしい。恐ろしいところだ。ジェノバ共和国の一部になった後は海上貿易やワインの輸出で栄えていたそうだ。
ヴェルナッツァを含む5つの沿岸の町はチンクエテッレと呼ばれている。1997年には世界遺産に指定され、1999年には国立公園に指定されている。現在の主な産業は観光で、チンクエテッレ全体の観光客は年間250万人にも及ぶ。1970年代にアメリカ人の有名な旅行作家がチンクエテッレを絶賛し、90年代以降観光客が激増した。最近ではアジア圏からの観光客が増えてきている。観光の最盛期である夏は毎晩騒がしい。この日は結婚パーティーが開かれ、ライブ演奏やプロポーズイベントで盛り上がっていた。ほとんどが観光客だがよく見ると地元の人も数人でワインを飲みながら談笑していたりトランプをしていたりする。隣のマナローラでは地元の若者が狭い広場で観光客の間を縫ってサッカーをしていた。(何しろ平地が少ないので)色々とカオスだ。海沿いので道が入り組んでいる町なので当然猫もいる。

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観光客で溢れる賑やかな町だが、観光客が多すぎてゴミが増えたり狭い道を歩くのが危険であったりとオーバーツーリズムの弊害が起こっているために観光客数を制限しようという話も出ているそうだ。このように普段は観光で賑わう町であるが、2011年10月に大雨が降り、町中を土砂が襲った。流れ込んだ土砂の高さは4mにも至り、ヴェルナッツァでも3人が亡くなった。

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災害の後、土砂崩れの危険性を知らせる信号が駅の下に設置されている。

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ヴェルナッツァの主な作物は葡萄だ。まちの背後には葡萄の段々畑が広がっている。ヴェルナッツァのワインは海上貿易が活発で出荷しやすかったことや、乾燥した土地で育つ葡萄の品質が高かったことから、14世紀からヨーロッパ内で有名になっていった。特にシャッケトラ(Sciacchetra)という干し葡萄からつくるワインはこの辺りの名物だ。リキュールのように甘く美味しい。

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19世紀初頭には葡萄の木を吊り下げる葡萄棚をつくる技術が輸入され(それ以前は床に這わせていた。現在では壁をつくるのが主流)、生産性が高まった。しかしその後、葡萄の病気が流行り、1920年にはブドウネアブラムシという虫害によって全ての種類の葡萄が枯れ、この土地は農業に適していないということで町から出て行く人が増えていった。1900年代の後半には新たな葡萄栽培の技術が導入され、年間5haほど葡萄畑を開拓していったため生産量が増えていった。90年代以降は観光客が増えるとともに、飲食店や土産物屋など観光客向けの商売が盛んになり、高齢化も伴って段々畑の荒地が増え、同時に崩れた石積みも放置されるようになった。

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農業をやっている人の多くは60歳以上だが最近では移り住んできた若い人や、アソシエーションが農地を借りて葡萄を育て、ワインを作る動きが出てきている。
他の一次産業については、16世紀には絹をつくるための桑を生産し、18世紀後半には森林を伐採しすぎて問題になるなど、時期は異なるが日本の傾斜地と似た土地利用をしているときもあった。
段々畑の傾斜はかなり急で平地の面積より壁の面積のほうが広いくらいだ。元の石積みが崩れているせいもあるが、この急傾斜で葡萄を運ぶのはかなり危険だ。葡萄の収穫のときには何回か足を踏み外しそうになった。

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危険だが眺めは最高に良い。インスタ映えする写真を撮るために葡萄の木を寄せてまちが見えるようにした。

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モノラックもあるが共用で、使える時間が決まっている。収穫した日に搾汁しないと美味しいワインができないため、運転手と運ぶ時間を調整するのが大変である。

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石の積み方はとにかくラフでプリミティブである。石の形は整えず、ツラを厳密に整えない。使う道具はバケツとランピンという二股の鍬のみ。道具の種類がとにかく少ない。

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とにかく重視するのは構造的な強度が保たれることと、雨が降ったときに土中を流れる水が流れやすくすることである。なので日本の積み方では禁忌と言われている石のツラをほんの少し下げるほうがよいという人もいる。石の形が細長いのでできる積み方だ。隙間は細い石で埋め、表面の積み石を置いた後は小さめの石で後ろの隙間を埋め、その上に土を被せて平らにする。

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石の名前もいろいろある。丸い石:ボール、平らな石:チャンチャネル、小さな石:スケジ、グリ石:アレカウゾ、良い形の石:バッロ。

土は雨が降ると固まるので擁壁の構造にかかっていてもよいという考え方のようだ。今回、エルミリオ親子に石積みを教えてもらった。グラッツェ。

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