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石垣は雨で崩壊するか、地震で崩壊するか

いろいろなところで、農地の石垣が崩れた原因を聞くと、大雨が降った後に崩れたという人がほとんどだが、地震で崩れたという話は聞いたことがない。一方でお城や石橋の石垣が地震で崩れたという話は話題性が高いこともあり、よく聞く。そのせいか石積み学校のワークショップに行くと、参加者の方に「やはり石積みは地震で崩れるのですか。」と聞かれることが多いので「雨で崩れることが多いので石積みを直すことも大切ですが、雨水がよく流れるように排水路をしっかりつくることも同じくらい大切です。」と答えている。大半のお城の石垣は豊富な資金と人材を投入することができたので、グリ石をたくさんいれていて、土圧の影響を受けにくい。そのため大雨で崩れることは稀だが地震で崩れることが多い。グリ石をたくさん使うことに加え、勾配を緩くすること、控えの長い石を使うことが大きく影響する。一方で農地の石積みは農業のほんの一部の作業であったため限られた材料と期間でつくる必要があり、グリ石はほとんど使われておらず、土圧の影響を受けやすい。そのため大雨で崩れることが多い。

石垣の崩壊の原因を力学的に考えるときには下記の2つの視点があると思う。1つめは「石垣を構成する個別の石が滑って抜けるか抜けないか」という視点。2つめは「石垣を一体の構造物と捉えた際に転倒するかしないか」という視点。1つめは個別の石の摩擦力が大きく影響し、2つめは背後からの土圧が大きく影響する。それぞれについて考えてみる。

1.石垣を構成する個別の石が滑って抜けるか抜けないか

石垣は一体の構造物として成り立っているために傾斜地の斜面の土留めの役割を果たしたり、上にお城や家などの構造物が乗っても崩れない。石垣は摩擦力だけでジョイントされているので構造物の強度を高くするためには摩擦力が大きくなればよい。滑りにくい石ほど良く、石にかかる荷重が重ければ重いほど摩擦力は大きくなる。よく言われる、積み石の控えの長さを長くすることは、接地面積を増やし、摩擦力を大きくすることにつながる、、のだと考えられる。このあたりのミクロな挙動は調べれば調べるほど分からなくなる。

2.石垣を一体の構造物と捉えた際に転倒するかしないか

石垣を一体の構造物と捉えた場合、転倒すると石垣は崩れる。構造物にかかる力はW=壁の自重、P=壁にかかる土圧、R=壁の下の土からかかる反力である。なので石垣の高さが低く、奥行きが長いほど転倒しにくく、土圧が弱いほど転倒しにくい。石垣背後の土圧が高まるのは、土が水を含み土自体が重くなること、水が飽和状態になり水圧が高まり土砂崩れしようとする力に抵抗する力が弱くなることが原因である。今まで見てきた崩壊した石垣は、下にコンクリート三面張の水路をつくったり、上に土を盛って畑をつくったり、そのほとんどが水はけが悪くなっていたり、排水路が無かったために水の流れが集中しているところだった。

実際に石を積んでいる感覚としては、よほどのことがない限り、グリ石をたくさん詰めて勾配を緩くしておけば強度的に十分な石垣をつくることができる。

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