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『ステーキ・レボリューション』10/16公開

 「肉食」が選択肢からなくなっちゃってる人にとっては、そういう存在(=ビーフ・ステーキおよび牛肉)があるってことがもはや想定外なのかもしれませんが、この映画、それでも見ておくべきだと思いました。ベジタリアンにとっては世界はまだまだ肉食主流、菜食傍流に見えているかもしれないけど、では、牛肉生産者にとって世界は生きやすいのか? 実は、彼らも日々自分たちの存在意義にクエスチョンを感じる日々で、一方で、自分たちが生産するものに対する愛情とこだわりははんぱでなく、この作品では、その彼らの姿が丁寧に追跡されています。

 大変興味深かったのは、欧米では、食肉生産は、矢印が「グラッス・フェド(草を食べさせる)」に向かっているのに対し、日本では「グレイン・フェド(穀物を食べさせる)」ことが「大切な牛肉を作る」ために行われていること。ビールを飲ませるというのはさすがに都市伝説のようなのですが、だからといって、日本の牛(神戸牛、松坂牛が取材)は邪見に扱われているわけではなく、毎日、畜産家から藁でマッサージをしてもらう。それから、神戸牛は虚勢された雄を肉食として出荷するけど、松阪牛は、ブランド牛として出荷されるのは雌の処女牛だけなんだそうです。そういう「肉」を食べる。ゆがんでるような気もするけど、もはや人間の食事全体が「栄養補給」じゃなくて「嗜好品」としての意味付けの方が大きいっていう「ゆがみ」を抱えているんだから、なその丹精っぷりには経緯を表してもいいような気がする。

 一方で欧米の育て方も大変に興味深い。イギリスの孤島(海風強い)やスペーンの荒れた山岳地帯で「放置育成?」されて味わいを出される牛たち。

 とくにびっくりしたのは、一応、世界のステーキをレポーターがカウントダウンしていくのですが、ある上位に選ばれた牛(ネタバレになるので詳しく書かない) 10歳を超えるまで育てられるんだそうです。グラス・フェドで「自然」に育てたとはいえ、肉がうまくなるために10年以上飼っておく、という、その、なんとも気の長いというか贅沢な話……。

 そして、もちろん、その間、牛たちはストレスなんかにさらせられてはいけません。生産者たちのケアを存分に受けて、そして最後に肉になっていく。なんだかせつないんだけど、でも、そんなふうに育てられた牛たちと生産者の間には、私たちの想像を超えた何かがある。

 とにかく「今まで見てなかったこと」が見えるのはいいことです。あの巨大な動物が、消費者のお皿に乗るまでに、どのような道程を経てくるのか。「食べる」ことをして生きている人なら、一度は見た方がいいと思うのです。そのあと「おいしそう」と思うもよし、「これ、食べ続けていいのかな」と思うもよし。

(追伸……この映画を見たご縁だったのか? カンタス航空で「グルテン・フリー・ミール」を頼んだら、行きの便でなんとステーキが出て来ちゃって、目がチカチカしながらも、お口に入れさせていただきました。完全あちら仕様の油気のない歯ごたえのあるお肉は……なんというか……「肉」の味だった!)


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