[読書ログ]「どっちでもいい子」
著: かさい まり
絵: おとない ちあき
出版社: 岩崎書店
あらすじ
感想
似たようなテーマの話を書いているので、参考に手に取った本。
四年生になる「はる」は、考えすぎて二択を選べずに「どっちでもいい」と言ってしまう。それは他人からみれば、「どうでもいい」と言っているように捉えられて、孤立してしまうが、なりたい自分になりたいと奮闘するお話。
テーマが分かりやすくシンプル。
前半は、「どっちでもいい」と言うことで優柔不断に見えたり、いてもいなくてもいい子のように見られて悲しくなるエピソードが続く。
途中、ヒップホップのスクールに通うことを決心してから、少しずつ自分の意見が言えるようになっていく。
後半で、ダンスを人前で披露したり、自分の意見を正直に言えるようになって、一歩成長する、さわやかなハッピーエンド。
出来過ぎな感じはあるが、性急な感じはなく、読後感は良い。
思っていることと、口から出てくる言葉に微妙な差異が生まれてくるのがこの時期の特徴だと思う。
こういう気持ち、なんて言えばいいかわからない。
言ってることと、感じてることが微妙に違うけど、適格な言葉が見つからない。
人の眼が気になって、思ってることをうまく口に出せない。
このあたりの共感を描きつつ、ヒップホップ教室というアクションを組み合わせることで、分かりやすく一歩先に進める実感を表しているのが分かりやすい。
自分だったら、もっと抒情的に書いてしまいそうだが、感情面はあまり描かずに、淡々と起きる出来事の描写を多めで書いていくほうが主流なんだろうな。けれど、どうしてなんだろう。それがいまだによくわからない。
児童文学でも、もう少し内面を描いても良さそうな気がするのだけど。
読み手の感情を強制してしまう性質が強いのだろうか。
もっと多様的な見方があるよね、こんなふうに考えているんじゃないかな、という受け取り方の間口を広げるというか。
でも、当時、自分はこういう描き方が物足りなくて、あんまり児童書を読まなくなっていった。
(個人的に、私小説が好きっていうのも影響していると思う)
クラスでのつらいエピソードがいくつか入っているが、先生がはるを導く存在ではないところが悲しい。
はるが泣き始めたら、あとでフォローが欲しいし、「どっちでもいいはだめ! みんな困るでしょ」はさすがに追い打ちかけてくる感じがひどい。
わたしでも泣くと思う。
幼なじみの颯太と仲良しの玲奈が、はるを励ましてくれる。
友達とのつながりが強くなっていく時期ではあるので、これはリアルで良いかもしれないが、家族の描写が少なく、はるを支えて守ってくれる存在が薄いように感じた。
これで、はるは今後もたのしくごきげんに過ごしていけるのか、勝手に不安になってしまった。(物語上は、ハッピーエンドなわけだけど)
物語に必要ない部分は大幅カットしているような描き方だ。
描写も、説明も、とにかくさっぱりしている。
五行くらいですぐに場面が切り替わる。
描写も少なめで、短い文章で淡々と説明する。
次の大きな転に行くまでのつなぎだと思うが、それにしてもさっぱりしている。自分だったらもっとダラダラと書いてしまいそうだ。
小学四年生くらいだと、このくらいのボリュームが適当なのだろう。
題材で共感性をもたせて、物語自体はさっぱりと書く。
しかし、ヒップホップでの楽しさや、自分を変化させるためのきっかけはもう少し丁寧に描いておいたほうが、後半の爽快感に説得力が増す気がするが、ちょっとしたきっかけ、ほんの一歩で変わるんだという意味合いで、このくらいのバランスでもよいのかもしれない。
題材もよく、バランスもいいが、可もなく不可もなく、という感じはある。
ただ、書き手としては、かなり勉強になった。
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