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坪内隆彦「宮城県の水道民営化を阻止せよ」(『維新と興亜』第7号、令和3年6月)

 「水は誰のものか」。そうした根元的な問いを、我々日本人が改めて発する時が来ている。世界の水を支配する水メジャーやグローバリストたちに日本の水道が支配されつつあるからだ。宮城県は来年四月から「みやぎ型管理運営方式」と呼ばれる水道民営化に乗り出そうとしている。最終責任は県が負いながら、民間事業者の自由裁量で運営するコンセッション方式だ。上水道のコンセッションはこれが初めてとなる。
 コンセッションは運営する企業に非常に好都合な仕組みだ。利益を出せる間は運営を続け、利益を出せなくなれば投げ出すことができる。撤退後の尻ぬぐいは自治体が住民の税金でしなければならない。
 これまで水道民営化は世界各地で試みられたが、大きな問題を引き起こしてきた。貪欲に利益を追求する民間企業は、利益拡大のために平気で水道料金を上げ、メンテナンスなどは余計なコストとしてカットしようとするからだ。
 例えば、ボリビア第三の都市コチャバンバでは、一九九九年に水道事業が民営化され、アメリカの建設会社ベクテル社の子会社アグアス・デル・ツナリ社が運営することになった。ところが、水道料金は倍以上に跳ね上がり、水道料金を払えない家庭が続出した。ところが、ツナリ社は料金を払えない家庭に容赦なく水の供給を停止しただけではなく、住民が雨水を利用することも禁じたのだ。その結果、住民たちは汚染された水を飲み、多くの人命が失われた。二〇〇〇年二月、コチャバンバ市民はついに立ち上がった。「水は神からの贈り物であり商品ではない」というスローガンを掲げてデモを行い、水道民営化を粉砕したのである。パリは一九八五年に水道民営化に踏み切ったが、物価上昇率が七〇・五%であった二十五年の間に、水道料金は二六五%も値上がりし、二〇一〇年に再公営化している。
 こうした世界の趨勢に逆らうようにコンセッションを喧伝してきたのが、竹中平蔵氏である。二〇一三年四月三日の「産業競争力会議」のテーマ別会合で、竹中氏は「官業の民間開放としてのコンセッションを今までとは違うスケールで進める」と語った。
 竹中氏と二人三脚になってコンセッションの旗を振ってきたのが、二〇一六年に内閣官房長官の「公共サービス改革」担当補佐官に就いた福田隆之氏だ。彼は、フランス水メジャー、ヴェオリアや最近同社に買収されたスエズ社との関係が深いと言われていたが、二〇一七年六月の欧州水道視察が国民の疑念を呼び起こした。彼の視察日程には、水道視察と関係ないボルドーやカンヌといった観光地が書かれていたからだ。「視察と称して観光地に遊びに行ったようなものだ」と批判を浴び、彼は二〇一八年十一月に突然官房長官補佐官を退任した。その時、福田氏を匿ったのが竹中氏だ。竹中氏は自身が教授を務めている東洋大学国際学部の客員教授として、福田氏を招いたのである。
 同年四月には静岡県浜松市で下水道コンセッションがスタートしていた。運営する「浜松ウォーターシンフォニー」には、ヴェオリアとともに、竹中氏が社外取締役を務めるオリックスも出資している。これほど分かりやすい利益誘導があるだろうか。さらに同年十二月には、下水道だけでなく、上水道のコンセッションも可能となる改正水道法が成立、真っ先に手を上げたのが、村井嘉浩氏が知事を務める宮城県だった。村井知事は、東日本大震災の復興策として「漁業の株式会社化」を提唱した新自由主義者で、一部では「宮城の小泉純一郎」とも呼ばれてきた。オリックスは宮城県の水道事業にも参入する。まさに、竹中氏のシナリオ通りに事は進みつつある。竹中氏は、宮城県を突破口に水道コンセッションを全国展開しようとしている。水がグローバリストたちの儲けの種になってはいけない。新自由主義者たちの目論見を断固阻止しなければならない。

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