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木原功仁哉「世界を牛耳る国際金融資本 ③中川昭一を失脚させた国際金融資本」(『維新と興亜』第16号、令和5年1月号)

アメリカと闘った中川昭一元財務相


 戦後の日本政治は、アメリカへの従属を深めた政治家が総理大臣となって長期政権を築く一方で、国益を守るためにアメリカと闘った政治家が悉く司直の手に落ちて政治生命を絶たれたり、非命な最期を遂げる傾向が顕著である。
 その最たる例は、麻生内閣において財務相を務めた中川昭一であろう。中川は、我が国が抱える大量の米国債をIMFに融資して処分したほか、尖閣諸島沖の油田の試掘、さらには祖国再生同盟の憲法観である「眞正護憲論」を熱烈に支持していたことなど、我が国の国益を最優先する政治姿勢を貫き、そのためにアメリカとその背後にある国際金融資本の謀略により政治生命を絶たれた政治家であった。今回は、中川の政策と数奇な運命について触れてみたい。

米国債を処分する「中川構想」


 我が国の特別会計の一つである「外国為替資本特別会計」(外為特会)は、GHQ占領下にあった昭和26年に設けられた。その主な資産は、円高時の「円売り・外貨買い介入に伴って取得した外貨」(財務省HP)などであるが、その実は、円高を抑制するために購入させられた大量の米国債である。令和4年10月末時点で日本の外貨準備高は1兆1945億ドル(160兆円)であり、その約8割を占めるのが証券で、国民には秘匿しているがその大半が米国債とみられるのである。
 我が国は、大量の米国債を保有しているものの、これを売却して介入資金に充てることが事実上できない。なぜなら、日本が米国債を処分するために円買いすれば円高基調になって輸出企業への打撃が深刻となるからである。その元凶は、戦後の我が国が、世界の分業体制の中での「工業立国」として農業を疲弊させられ、自動車製造等の輸出産業なしには経済が成り立たない体制に組み込まれたことにあるのを忘れてはならない。
 しかも、巨額の財政赤字を抱えるアメリカが財政的に維持できるのは日本が米国債を買い支えている(日本国民の財産をアメリカに献上している)からであり、仮に日本が米国債を処分して流通させれば、たちどころにその価値が下落し、世界経済が大混乱に陥る。このような事態は、アメリカの通貨発行権を牛耳るFRBと国際金融資本にとって絶対に避けなければならないことである。
 確かに米国債にも利子が付くが、これもドル建てなので、円に換算しようとすれば為替変動を招く(円高になる)。そのため、外為特会の資産高の増大は数字上のものにすぎず、塩漬けされ続けている米国債を運用して日本国民の生活を向上させることができないのである。
 この問題に真正面から取り組もうとしたのが中川であった。すなわち、平成20年8月のリーマン・ショックの直後に成立した麻生太郎内閣で財務大臣に任命された中川は、かねてから我が国が保有する大量の米国債を処分する方法を模索していたところ、平成20年のリーマン・ショック後に、IMF(国際通貨基金)に対して新興・中小国向けの新たな緊急融資制度を設けることを提案し、我が国が保有する米国債1000億ドル(9兆2000億円)を原資としてIMFに融資する旨を表明した(中川構想)。この中川構想に基づく制度は各国から高い評価を受け、IMFのストロスカーン専務理事(フランス)は「人類の歴史上、最大の貢献だ」と述べた。そして、ウクライナ、ベラルーシ、パキスタンが、緊急融資を受けることで救済されたのである。これは、米国債を円に換算することなく処分したという稀有な例であり、しかも、これによって我が国が国際社会に多大な貢献を果たすことができた。
しかし、この後に中川とストロスカーンに様々な謀略の手が襲い掛かる。
 ストロスカーンは、同年5月のニューヨーク滞在中にホテル従業員の女性に対する性的暴行の疑いで逮捕・訴追された(最終的に検察が起訴を取り下げた)が、次期大統領候補と目されていたものの、その後の女性関係の醜聞が相次いだため、大統領選への立候補を断念させられた。そして、中川は、平成21年2月のG7財務相・中央銀行総裁会議が終了した後の記者会見で、朦朧としてろれつが回らない状態に陥り、これが世界中で報道され、3日後に財務相辞任に追い込まれた。さらに、同年8月の衆院選に落選し、同年10月の自殺へと至る。総理総裁の最有力とみられていた絶頂から奈落の底に追い落とされた中川に何があったのだろうか。報道では、酒と風邪薬を一緒に飲んだなどと報じられたが、飲んだ酒の量は少量であり、これによって風邪薬の顕著な副作用が出るとは考えにくい。
 それゆえ、何者かが中川が昼食に飲んだワインに薬物を投入したとしか考えられないのであるが、その黒幕の一人として挙がるのが、ロバート・ゼーリック世界銀行総裁(Robert Bruce Zoellick)である。
 ゼーリックは、デヴィッド・ロックフェラーの直臣とされる。国際金融資本は、我が国による米国債の大量処分という「パンドラの箱」を開けた中川を何としても排除しておく必要があったのである。もし、中川が現在の総理大臣であれば、間違いなく1ドル80円台の時代に購入した米国債を130円台の今こそ売却して円高に誘導するとともに、その巨額の為替差益を円安で苦しむ国民に分配するほか、必要な防衛費にも充てていたであろう。

エネルギー自給率向上への取り組み


 中川が国際金融資本から目を付けられた理由はこれだけにとどまらない。我が国のエネルギー自給率を向上させなければ真の経済主権を確立させることができないとの確信を持っていた中川は、小泉内閣での経産相として尖閣諸島沖の油田の試掘に取り組んだ。
 尖閣諸島沖には、石油、天然ガス、レアアースなど豊富な地下資源に恵まれており、平成16年に中共が本格的に春暁(日本名:白樺)ガス田などの採掘を図った。その採掘しようとした地帯は、日支中間線の日本側に位置しており、中共の採掘によって我が国の資源が中共に吸い取られるおそれがあったことに対抗するため、平成17年に経産相として帝国石油に試掘権を付与したのである。しかし、その後に親中派の二階俊博が経産相に就いたため、それ以上に試掘が進展を見ることはなかった。
 もし、この試掘が成功した場合にはどうなっていただろうか。経産省石油審議会が平成6年に試算したところよると、日支中間線の日本側の原油埋蔵量は32・6億バレル(天然ガスを含む原油換算、5・18億キロリットル)であり、現在の原油価格や為替レートに換算するとその価値は35兆円に達する。我が国の年間石油消費量は120万バレルであるから、単純計算で2700年分となり、国内需要を十分賄えるどころか、我が国が資源輸入国から資源輸出国へと転換しえたのである。しかし、国際金融資本は、日本とアメリカのパワーバランスを変更することを決して望みはしない。FRBが刷るドル札の価値を支えているのは、強大な軍事力を持つアメリカ政府であるから、日本が資源輸出国となり強国化することは、FRB及び国際金融資本の死命を制することになりかねない。日本は今もなおアメリカ及び国際金融資本の敵国であり、中川が行った尖閣諸島沖の試掘を許すことなど、決してしないのである。

眞正護憲論が正当であるとの誓い


 ところで、祖国再生同盟の憲法観は、現在も大日本帝国憲法が有効であり、占領憲法(日本国憲法)は帝国憲法の下位規範であるアメリカとの「講和条約」の限度で有効であるとの見解(眞正護憲論)に立っているが、中川も全く同じ見解に立っていた。すなわち、平成14年11月、本党の最高顧問である南出喜久治弁護士が、福岡の筥崎宮で開催された憂国忌(三島由紀夫、森田必勝両烈士の慰霊祭)の際に来賓として出席した中川と再会した際、「現行憲法無効宣言」の冊子を渡して熱く無効論を語ったことに対し、これからはこれを基軸に日本を再生したいと中川が誓ってくれたのである。
 我が国の主権回復を様々な角度から試みた中川を失ったことは、我が国にとって余りにも大きい損失であった。

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