生成AIについて所感(2024年1月)
実験とか愉快犯とかじゃなく、実用している立場からテキストを残しておきます。
正義は毒
XでAIイラストに対するヘイトを見かけることがよくあります。
SNSで憎悪をアウトプットして、そこにポジティブな反応が返ってくるのは普通に危険です。
ループしながら、善と悪という世界観に取り込まれてしまいます。
政治運動によって社会を動かすなら、そういう精神状態が必要な歴史的場面もあるかと思います。
が、神に選ばれた民が進撃しているわけではないです。期待外れの結果に終わって、誰もいなくなるかもしれません。
その精神的損失を埋めるために社会不信に陥るリスクなどもあります。
我々日本の民は儒教社会に住んでいるので、孔子が言う「罪を憎んで人を憎まず」という考え方に寄りがちです。
この考え方は、狭い村の中で盗みを働いた人間などを許す時には適しています。
が、逆に、人を憎んで技術を認めたほうがいいケースもあるでしょう。
悪質なAI絵生成者とかはそれです。
無難に利用することは可能
文化庁のガイドラインが想定しているような無難な付き合い方は可能です。
・十分に大きくて多様なデータセットを使う(もしくはNovelAI、Firefly等を利用する)
・プロンプトに、作品名、作者名、キャラ名、製品名などを含めない
これを守れば、法的に安全と思われる絵が出ます。
私はそのように利用しています。
普通の絵の代わりにならない
前項に書いたようなやり方で出る物は「そんなの私の欲しい絵じゃない」という人が多いでしょう。
特に一度でも絵師を志した人なら「大好きなA先生とB先生のいいとこ取りした絵柄を自分の物にしたい」みたいなことを願うのではないでしょうか。
そういうプロンプトを記述することはできますし、お金と時間をかければA先生とB先生の絵ばかり集中的に学習させたデータセットを作ることもできるでしょう。
が、権利をバリバリ侵害してしまうし、新たな絵柄(?)は不安定で、ましてや継続的に発展させるとなると、まあ不可能です。
人間が描かないとそれはできないと思います。
停滞しているのではないか
あくまで個人的な感想ですが、一時期あった「日進月歩でたちまち世界が変わる!」みたいなのは幻想だった気がしています。
技術的に行き詰まっているように見えます。
NovelAIはこの1年でV1からV2が出て、V3になりました。
V2では鳴り物入りでControlNetが搭載されたけど、正直大したことがなく従来のimg2imgでブレンド比を操作したほうがマシです。
V3では「当社の最新鋭モデルでついに指をうまく描画できるようになった!」とのことでしたが、やはり大して良くなっていません。
今でもV1でしか出せない絵があり、V2じゃないとうまく出ない絵が多数あり、V3はあまり使っていません。
NovelAIが喧伝するほどではなく、単に方向性を変えたとか、得意分野を絞ったとか、そんな感じに見えます。
本質的にはあまり進化していない気配があります。
プロンプトとレイアウトのヒントで絵を生成することに根本的な限界があるのだと思われます。
今広く思われているのとは逆で、最終的に「絵」はAIの侵食を受けにくい分野なのではという予感すらあります。
おそらく、言語化しやすい分野ほどAIに喰われます。
絵には言葉で表現し難い部分が確かにあります。
おせちとシュークリーム
5000円のおせちと、200円のシュークリームがあって、どちらを食べたいか幼稚園児にきいたらどう答えるでしょうか。
というか大人でも、値札とか周りの目を気にしなければ、けっこうシュークリームなんじゃないですかね。
では我々クリエイターはおせちのようなコンテンツを作るべきか、それともシュークリームのようなコンテンツを作るべきか、これもまた一長一短です。
おせちは、労力さえかければ、労力そのものを評価してもらえるかもしれない。
シュークリームは、お菓子の中ではかなり難易度が高いです。
クッキーやチーズケーキなら計量しないで作っても完成するのに、シュークリームは真剣にやっても膨らまないかもしれません。
でも、パン工場で安定してずんどこ大量生産されてコンビニに運ばれてきますね。
絵で言えば、上野の国立西洋美術館に展示されているような、解説を読んでもピンとこないような情報量の多い作品は、SNSでは不遇かもしれません。
一方で「◯◯な美少女が△△している」とか「◯◯な美少年が△△している」みたいな言語化しやすい絵はいいねがたくさんつくかもしれません。
お気づきかと思いますが、↑はプロンプトなので、AIでそれっぽいのを出せます。
消化にいいことの弊害です。
一方で西洋名画とかは「何年も見続けてもある朝に新しい発見があるようなAAA超大作を創るぞ」という作者の気概が感じられます。
数百年の時の流れで文脈が喪失しているため、西洋美術館に行ったところでだいたいの名画は私にとって意味不明ですが「絵が重厚なコンテンツの王だった時代があるんだな」的にメタな感銘を受けたりします。
クラシック音楽についても似たようなことを思うことがあります。
では、ゲームはどうするか。
これは行動で示していかなくてはならないでしょう。
AIはそのうち来ます。
次の進歩
NovelAIは停滞していますが、2023年はPhotoshopに部分的なAI生成が内蔵されたのは大きな進歩でした。
とはいえ依然として、絵師に役立つ技術にはなっていません。
せいぜい背景に使えるかどうか、というところでしょう。
ただ、そのうち、今年か来年かはわからないけど、普通に絵を描いていると「次にあなたが描きたい線はこれですよね」的に候補をいくつかサジェストしてくれるような、絵師に役立つ機能が登場すると見ています。
おそらく現状の技術の延長線上で行けそうに思います。
自分の絵柄を維持した上で生産性を高めてくれる機能なら、新規の絵師はほぼ全員使うだろうし、既存の絵師も何割かは取り入れると思います。
そういう形で、反AI戦線みたいなのがうやむやに自然解散する可能性もあるかなと見ています。
私もプログラムを書く時、ChatGPTの対話型インタフェースで助言してもらうのは結構ダルいです。
でも、Github Copilotが次に書くコードをサジェストしてくれるのはめちゃくちゃ役に立っています。もはや手放せません。
至れり尽くせリとSteam
Steamは生成AIを利用したゲームに対して厳しい姿勢を取っています。
ですが後に「イデオロギー的な理由で生成AIを嫌っているわけではなく、単に法的なリスクに備えているだけだ」という旨の声明も出しています。
至れり尽くせリはAIイラストを多数使って制作しています。
やはりSteamで出してみることにしました。
「日本語のみ対応、日本国内限定配信であり、日本においては文化庁がガイドラインを出していることから法的リスクはない」ということを丁寧に説明してSteamの審査の方にお願いしてみるつもりです。
(1/10)更新
SteamはAIアセットをこれまでより容認する方針を発表
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