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グラマン F6Fヘルキャット(1941)

 グラマンF6Fは、基本的にはF4Fをひとまわり大きくして大馬力エンジンを載せたものである。F4Fは開発に時間がかかり、紆余曲折があってようやく完成したが、頑丈さや生産性など戦時に好都合な機体であった。気を良くして、F5Fは1200馬力の空冷星型エンジンを2基を狭い間隔で積み、その中間の隙間に操縦席を配置するという野心的な双発戦闘機を開発したが、こけた。これはマズいということで、手堅くF4Fの「醜悪な」デザインのままで画したのがF6Fである。F4Fを引き継いでいるで、設計開始から1年で仕上げることができた。太平洋戦争がすでに始まり、零戦が暴れまくっていたので、アメリカ海軍は初飛行前にもかかわらず「大至急量産せよ!」と発注をかけた。コロナ・パンデミック時のワクチン開発の先駆けを感じさせる。

 しかし、F4Fの基本設計が良かったのか、F6Fも頑健さや生産性の良さをそのまま引継ぎ、2代目「グラマン鉄工所」となった。最終的には12000機以上生産されることになり、太平洋戦争後期の零戦をなぎ倒した。

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 イラストを描くとわかるのだけれど、エンジンの軸線と機体の軸線が微妙にズレている。エンジン軸線が少し下方になっている、というか機体の軸が下がっているようにも見える。飛行している写真を見るとやはり機体の後部が若干下がり気味のように思える。気のせいかな。

 グラマン戦闘機の特徴だった胴体引き込み脚を一般的な翼引き込み式にした。もともと、グラマンはこの引き込み式脚のメーカーからのし上がってきたともいえる会社だから、大いなる決断がなされたといえる。また、それに伴い中翼だった主翼を低翼にした。いや、中翼を低翼にするために脚の機構を変えたのだ。そのため着艦時の安定性が増した。日本海軍機の紫電が紫電改になった時の主翼の経緯と同じである。

 F4Fでのノウハウを生かし、実験的なアイデアは極力廃してできるだけ早く戦場に出すことを優先した。同じエンジンを採用し先に制式化されたF4Uが、航空母艦からの発着艦に問題があり、初期トラブルに見舞われたのと対照的に即戦力として戦場に出て行った。

「第二次世界大戦の『軍用機』がよくわかる本」(PHP文庫)に、次のようなエピソードが紹介されている。
「アメリカ海軍の対日反攻作戦の鍵は、2万7000トンクラスのエセックス級航空母艦である。1番艦エセックスは1942年12月に就役、大戦終結までに計14隻 の同型艦が太平洋戦域に投入された。この空母就役に合わせるように、絶好のタイミングでへルキャットの配備が開始されたのである。エセックス級空母とヘルキャットのデビユー戦は、1943年8月31日の南鳥島(マーカス島)急襲であった。
 グラマンはヘルキャットに加え、TBFアベンジャーの大量発注も受けていたため工場増設の必要に迫られる状況になった。ところが戦時のため鉄材は政府割り当て制で入手困難と見ると、廃線になったニユーヨーク高架鉄道や万博パビリオンの廃材をいち早く買い付け、超特急で工場を建設した。
 この時の海軍内には、グラマンは鉄材をヘルキャットにも使ったのではないか、 というジョークが流れた。これはグラマン製の機体が重いことと非常に頑丈だった ことを揶揄混じりに賞賛したものだ。後に同社製の機体が撃たれ強く丈夫なことか ら、グラマン•アイアンワークス(鉄工所)製と呼ばれるもとになったのである。」

 2000馬力になったエンジン出力の余裕は防弾装備に余裕を増すことになった。防弾ガラス、防弾装甲は総重量96kgにもなった。また、燃料タンクも巨大にでき、航続距離を増すことができた。燃料タンクにも自動防漏装置が付けられた。零戦が相当数の命中弾でダメージを与え、白煙を吐いて落ちていくのを見て撃墜として報告していても、どっこい海上近くに逃げて無事帰還していることも多かった。なかなか撃墜できないタフな戦闘機だったのだ。また、余裕ある馬力でロケット弾や爆弾などを1.8tも搭載することが可能だった。

 「零戦に対抗するために開発された」という伝聞が多いが、開発自体は1939年にスタートしており、後付けの理由である。零戦を意識してよりスマートにデザインしたのはF8Fで、これはかなり洗練されたデザインになった。デビューは戦後になり、長くエアレースで活躍することになる。

 F6Fが戦場に出たのはミッドウェイ海戦後で、F4Fと入れ替わるようにソロモン海域の空戦で次第に零戦を圧倒し、馬車馬のような働きを示した。未熟なパイロットが操縦して着艦ミスをしても頑健な構造で生命を守った。また、その防御能力の高さでも未熟なパイロットの生命を守った。日本海軍が搭乗員の生命を消耗品のように使ったのと大きく比較されよう。凡々たる設計ではあるが戦時にあっての名機と言えよう。

全長 10.24m
全幅 13.06m
全備重量 5,704kg
発動機 プラット&ホイットニー R-2800-10W(2000hp)
最高速度 599km/h
武装 12.7mm機銃×6 最大1.8tのペイロード(爆弾、魚雷、ロケット弾など)

> 軍用機図譜


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