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中島 二式戦闘機「鐘馗」(1940)

 「日本のロケット開発の父」と呼ばれる糸川英夫博士は、東京帝国大学工学部航空学科を出て中島飛行機会社に就職し、九七式戦闘機、一式戦闘機『隼』、二式(単座)戦闘機『鍾馗』など陸軍の戦闘機設計を行っている。一式戦闘機『隼』は名機として評判が高いが、自分の設計した飛行機の最高傑作は二式戦闘機(単座)鐘馗だと述懐している。二式(単座)とあえて単座をつけているのは、二式(複座)戦闘機『屠龍』もあるからだ。煩わしいので、本文では以後、そのまま二式戦闘機と書く。

 昭和53年に出版された「丸メカニック」第9号は、二式戦闘機を特集している。冒頭に、航空評論家内藤一郎氏が「異色の名機キ-44『鐘馗』の生涯」として論評を載せている。内藤氏は、元海軍技術中尉で戦後は航空評論や翻訳の仕事をされていた。内藤氏の翻訳したレン・デイトンの『戦闘機 英独航空決戦』(早川書房)は何度も読み直し、お世話になった。wikiによると1921年生まれで、ご存命だ。

  内藤氏によれば、「あやふやな思想のもとに誕生した」という。陸軍は「軽戦」「重戦」「遠戦(遠距離戦)」という3つのカテゴリーを設けていたが、その定義づけがあいまいなままだった。戦後の位置付けでは、一式戦闘機は軽戦、二式戦闘機は重戦というのが定説になっているが、開発時にはそのような区別があいまいなままで、陸軍部内でも根底となる戦術・戦略思想が対立するまま、戦争に突入し、実際の戦場で必要とされていったということだ。空戦重視の一式戦闘機もおなじようにふりまわされ、制式化がおくれ、速度重視の二式戦闘機とほぼ同じ時期に制式化されている。

 二式戦闘機の高速重視の設計思想は、ヨーロッパでのドイツの戦闘機Bf109の用兵思想とノモンハン事件でのソ連軍機との戦闘で得た戦訓が影響している。空戦性能を生かした巴戦から一撃離脱の高速戦へと戦術の変化に対応した戦闘機の開発が必要になったのだ。開発は昭和13年初にスタートしたが、この方針が固まるまで時間がかかり実際に要求性能が固まったのは昭和14年なかばであり、1年半も足踏みをしてしまったのだ。最大速度600km、上昇力高度5000mまで5分、400km/hで2時間プラス空戦時間30分、7.7mm銃と12.7m砲各2というもので、Bf109と似通っているものになった。ヨーロッパでの高速航空戦が明らかになるに従い、この方針が確固たるものになってくる。海軍も同じような思想で局地戦闘機を開発着手し、『雷電』が誕生する。デザイン的にはよく似たものになったが、二式戦闘機の方がのびやかな設計デザインに思える。若き日の糸川博士を中心に中島飛行機の設計チームがさまざまなアイデアを出し合い、海軍ほど仕様にしばられず自由に線を描いたためかな。

 これまでの日本の戦闘機では考えられないほど翼面荷重が大きい二式戦闘機の空戦性能をカバーするために蝶型フラップを採用する。離着陸時だけでなく、空戦時にもボタン一つで20度の開閉ができ、運動性を改善した。この超型フラップは、一式戦闘機にも後付けされ、糸川博士のアイデアとして後日も語られることになる。また、同じような発想のフラップとして川西飛行機の強風、紫電、紫電改の3兄弟につけられた自動空戦フラップがある。

 二式戦には、さまざまなアイデアが盛り込まれている。大型エンジンを収めた機首から絞り込んだ機体のデザインは高速性をあたえた。同じようなデザインに、フォッケウルフFw190や中島飛行機の艦上偵察機『彩雲』がある。また、垂直尾翼が水平尾翼よりもかなり後方に位置している。縦方向の安定性と横方向の安定性を分離して得ようとした発想で、これにより機体の「すわり」がよく、射撃時の命中率が向上した。また、当初から防御への構えがしっかりあり、防漏の燃料タンクや防弾鋼板が備えられていた。一番多く作られた二式戦2型は1175機である。性能の向上を図り、2000馬力の『誉』エンジン搭載の改良機も作られたが、大東亜決戦機として四式戦闘機『疾風』が最優先生産が決まり、1機だけの試作に終わった。

 太平洋戦争と同時に南方戦線で前線に配備されたが、航続距離が短く一式戦闘機ほどの活躍の場はなかった。しかし、連合国軍に押され防衛戦になるにしたがい出番がでてくるようになる。太平洋戦争末期には本土防衛の迎撃戦闘機として活躍する。高度をかせぐために防弾鋼板などをはずし、高高度まで達してB29に体当たりをする戦法をとる震天制空隊が結成された。

二式戦闘機2型
全長 8.9m
全幅 9.45m
全備重量 2,769kg
発動機 ハ41型 (1,250hp)
最高速度 605km/h (5200m)
航続距離 1,290km
武装 7.7mm機銃×2、12.7mm機銃×2 100kg爆弾×2

> 軍用機図譜 

 

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