愛知 九九式艦上爆撃機 D3A2(1940)
急降下爆撃は、目標までギリギリに近づいて爆弾を投下するため水平爆撃に比べ命中精度が高く、相手に与える被害は甚大なものになる。ただし、敵に向かって急降下していくためパイロットには相当な肝っ玉が求められる。1919年、ハイチやドミニカでの作戦で最初に運用したのは、勇猛果敢なアメリカ海兵隊であった。その後、アメリカ海軍で急降下爆撃機の研究が続けられ、1935年に初代ヘルダイバーが誕生する。
ドイツ空軍のウーデッド大将もアメリカの急降下爆撃に刺激を受け、「ドイツで開発する爆撃機はみな急降下爆撃ができること」という命令を出し、ドイツが戦略爆撃機を持ち得ず敗北の一因になってしまうことになる。日本でも、横須賀海軍航空隊戦闘機分隊長源田実大尉(当時)が、急降下爆撃機は爆撃後に戦闘機に流用できるとして戦闘機無用論を言い出し、関係者を慌てさせた。ことほど、その当時の艦上爆撃機のインパクトは大きかった。
そのような期待が高まっている昭和11年(1936)に、愛知航空機は「十一試艦上爆撃機」の試作命令を日本海軍から受けた。当初海軍から試作の下命を受けたのは、中島飛行機・三菱航空機・愛知航空機であったが、三菱は早期に開発を断念、中島も納期に間に合わず、愛知航空機が残った。愛知航空機は、ドイツのハインケル He 70を参考に設計を行ったので、デザインのあちこちにハインケルHe70が漂っている。固定脚、主翼下面にダイブブレーキ、低翼式主翼、主翼・尾翼の形状が楕円形などが特徴である。昭和13年(1938年)に初飛行に成功した。初飛行後も様々なトラブルに見舞われ、ようやく昭和14年12月16日に「九九式艦上爆撃機一一型」として正式採用された。新鋭の航空母艦に続々と配置され、海軍航空隊の攻撃部隊の中核として搭乗員ともに練成されていった。この攻撃力についての自信が戦争に踏み切る一助になったかもしれない。期待通りに太平洋戦争初期は、真珠湾攻撃をはじめ、大活躍をする。
初期の活躍について、「第二次世界大戦の『軍用機』(PHP文庫)がよくわかる本」に次のように記述されている。
「太平洋戦争緒戦における99式艦上爆撃機の活躍は、伝説的ともいえる凄まじさであった。これは開戦前に血の滲むよぅな訓練に明け暮れた海軍艦爆搭乗員の神技ともいうべき爆撃技量と、扱いやすかった99式艦爆が結びついたことで達成されたものだ。真珠湾攻擊作戦でも99式艦爆は十分な働きを見せたが、これはあくまでも奇襲であり、相手は据え物斬り同様の静止目標であるから特箪に価しない。
1942年4月5日、空母4隻を旗艦とする日本海軍の機動部隊(南雲艦隊)はインド洋に進出し、セイロン(現スリランカ)のコロンボを空襲した。その際、避退するイギリス海軍の重巡洋艦2隻を発見。直ちに艦爆隊が急降下に移り、コーンウォールには7分問に15発の命中弾を与えて擊沈、ドーセットシャーに対してもほぼ同様だった。発見から2艦沈没まで20分、爆弾命中率は実に88%であった。
そして4月9日には軽空母ハーミーズと駆逐艦、コルべットなどからなる小艦隊 に襲いかかり、ハーミーズをわずか15分で擊沈、他の艦もすべて短時問のぅちに葬 り去ってしまった。この時の爆弾命中率は89%だったという。
このように素晴らしい活躍を見せた99式艦爆も、1942年後半以降は機体の旧式化とベテラン搭乗員の減少とが相まつて、苦戦を続けることになるのである。」
飛行機の進歩は日進月歩、特に戦時は何倍増しに進歩する。ミッドウェイ海戦ではアメリカ軍が揃えてきたドーントレスとの差し違えのような戦いになる。ドーントレスは引き込み脚で速度もやや増しているだけでなく、やはり防御の面でも軍配が上がる。爆弾搭載量もドーントレスが500kg爆弾を搭載できたのに対し、九九艦爆は250kg爆弾がリミットだった。
ミッドウェイ海戦で、日本のベテラン艦爆搭乗員は消えてゆき、アメリカ海軍のパイロットは戦訓を得てリーダーとして再度戦場に出てくることになる。ちなみに海軍兵学校出の艦爆搭乗員だった直木賞作家豊田穣もこのとき撃墜されアメリカ軍捕虜となっている。
その後、アメリカ軍新兵器のレーダーやVT信管が戦場で効果を出し始めたことや圧倒的な数の戦闘機による制空権での急降下爆撃は味方の被害が大きい割に効果を出さなくなる。すでに旧式になっていた九九艦爆であったが、それでも戦場に出ていき「九九棺桶」と陰で呼ばれるようになる。そもそも艦爆の搭乗員の適性は勇猛果敢でひるまないような根性を持っていることとされていたが、その頃の搭乗員は「いつも幽霊のような顔をしていた」などという証言もある。
さらに戦争も押し詰まってくると九九艦爆を使った特攻隊も組織され、通常攻撃では使用されなくなる。最後までよく働いたがすでに時代遅れの飛行機になっていた。
<九九式艦上爆撃機ニニ型>
全長 10.231 m
全幅 14.360 m
全備重量 3,800 kg
発動機 金星五四型 1,300馬力
最高速度 427.8 km/h(高度5,650 m)
武装 機首固定:7.7mm×2、後方旋回:7.7mm×1
爆装 250kg × 1、60kg × 2
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