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杉田庄一物語 その41 第五部「最前線基地ブイン」 南太平洋沖海戦

 兵数で上回っていた日本陸海軍のガダルカナル島上陸隊は、米軍が陥っていた「十月の危機」を好機にいかせなかった。十月二十三日、やむをえず正面突破を陽動作戦とし、先に失敗した川口支隊同様にジャングル迂回作戦に出る。せっかく輸送できた貴重な歩兵砲などの携行小火器もジャングル内に持っていけず、捨てて進むことになる。戦訓は生かされなかった。結局、先回と同じ轍を踏むことになる。ジャングルの中での行軍で将兵は疲れ果てている上、重火器を持たないために苦戦を重ねる。第二師団による総攻撃は待ち構えていた米海兵隊によって簡単に殲滅させられてしまう。十月二十六日、ガダルカナル島奪回は不可能という報告をもって第二次総攻撃は中止になった。

 この間、十月二十四日夜、ガダルカナル島の現地陸軍部隊から「今夜十一時、陸軍部隊ハ、ガダルカナル飛行場ヲ占領セリ」の無電連絡があった。
 実際は、ヘンダーソン基地を目前にした丘で、日米陸上部隊の激烈な戦闘があり、日本軍の一部が基地の一角に達した時「バンザイ」という暗号無電を大本営に打ったのが誤解を招くことになったのだ。暗号文の「バンザイ」は、「我、敵飛行場ヲ占領セリ」であった。しかし、そこは飛行場ではなく基地東側の草原でしかなく、確保もできていなかった。この時の戦闘では、日米合わせて千名近くの死傷者が出て、この丘は「血染めの丘」と呼ばれるようになった。

 しかし、ラバウル、ブイン、そして空母でも、この連絡を受信した部隊は歓声がわき万歳が繰り返された。すぐに副長から「明日、戦闘機隊はガダルカナル島に進出する」と命令が下される。

 翌日早朝、指揮官二神季種(ふたがみすえたね)中尉以下、二空戦闘機部隊の零戦五機と鹿屋空の三機がラバウルからガダルカナル島の占領した飛行場に向かった。発進後に、「飛行場占領は誤り、今夜七時に突入予定」という電報が届く。零戦隊は発進した後で、無線は通じなかった。米軍機が待ち構えているところに着陸しようとした零戦隊は逃げようがなかった。帰ってきたのが二空の長野喜一一飛と鹿屋空の三機のみで、二神注意、石川四郎二飛曹、森田豊男三飛曹、生方直一一飛が未帰還となった。

 この日の朝、二空の角田飛曹長は無理を続けていたため体調を崩していた。副長から「寝室で休養せよ」と命令を受け出撃を見合わせた。二神中尉は飛行学生を終えたばかりで経験が少なく、徐々に慣らさせていくので頼むと角田は言われていたので、せめて見送りに出ようとしたが、よろよろと膝を崩し立ち上がれなかった。角田の診察結果は、デング熱、熱帯性マラリヤ、三日熱マラリヤの三種混合で重体だった。

 少し前に戻り、ヘンダーソン基地が攻撃されたすぐあとで、日本の連合艦隊は陸軍第十七軍の第二次総攻撃支援のために第二艦隊戦艦「金剛」、「榛名」、第二航空戦隊空母「隼鷹」、「飛鷹」及び第三艦隊第一航空戦隊空母「瑞鶴」、「翔鶴」、「龍驤」、「瑞鳳」等をガダルカナル島周辺へ派遣していた。これを察知した米海軍も空母「ホーネット」と空母「エンタープライズ」による二つの機動部隊を派遣し、第二次総攻撃が中止になった十月二十六日に両機動部隊同士が対決する。索敵機を飛ばして情報をさぐりあっていたところ、ほぼ同時に相手を見つけて南太平洋海戦となった。

 日本軍側は、米空母「ホーネット」を撃沈、空母「エンタープライズ」を撃破、航空機八十一機と搭乗員二十六名を喪失させるという戦果を挙げた。しかし、日本軍の空母「翔鶴」「瑞鶴」も損害を受け、航空機九十二機と搭乗員百四十五名を失った。特に艦爆隊や艦攻隊の損害が大きく、真珠湾攻撃以来のベテラン搭乗員を多数失うことになり、このあとの作戦に大きく影響を与えることになった。

米艦隊は一時的に太平洋艦隊の空母が一隻もなくなるなど戦術的には敗れたが、日本の機動部隊の貴重な搭乗員が米軍の五倍以上失われたことにより、戦略的には大きなポイントを稼ぐことになった。

 この二日前の十月二十四日にルーズベルト大統領は、統合参謀本部に覚書を送り、要望している。

「ガダルカナルを保持するため、現地にあらゆる兵器が確実に届くよう取りはからい、この危機を乗り切った暁には、弾薬、航空機、搭乗員を続々と送り込み、その成功を活用せられたい」

ニミッツの訴えが大統領に届いていた。

 米軍は本国での航空生産がフル稼働し出したのに対し、日本軍は少ない航空機生産能力が対比されると同時に経験ある搭乗員を多く失うという戦略的な致命傷を負う。ガダルカナル島での米海兵隊と米陸軍も日本軍の攻撃からヘンダーソン飛行場を守り抜いた。日本軍の死傷者は米軍の十倍に及んだ。米軍は「十月の危機」を脱しつつあった。

<参考>

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