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飛行機の本#31イエーガー音速の壁を破った男(チャック・イエーガー+レオ・ジェイノス)

チャック・イエーガーが12月7日に亡くなった。97歳だった。どうもその筋の友達が多いのか、私の見ているFacebookには追悼ページが多くシェアされていた。私もチャック・イエーガーについて書かなければとこの『イエーガー』を読み直してみた。チャック・イエーガーの自伝だ。これが、面白いのだ。かなり分厚い本だけれど一気に再読してしまった。

チャック・イエーガーは、アメリカ空軍のテスト・パイロットでX1というロケット機で初めて音速を破った男として知られている。また、そのいきさつを含めて宇宙を目指したNASAの最初の宇宙船パイロットたちを描いた映画『ライトスタッフ』のモデルでもある。しかし、伝説はそれだけにとどまらない。とんでもなくエキサイティングな人生を送っているのだ。

書き出しから映画のようなシーン。ロケット機X1が2万フィートの上空で母機から切り離される。しかし電気系統が全てが切れている。決断に許される時間は2秒、パラシュートで脱出するか滑空で地面に降りるか。実験機は簡単に作れるわけではない。イエーガーは、滑空を選ぶ。

極貧の家の5人の子供の2番目として生まれ、スイカを盗んだり狩をしたり、野生の中で育つ。小さい頃に6歳の兄が家にあった銃をいじっていて2歳の妹を撃ち殺してしまう。自分は4歳の時だ。それが幼い時の痛烈な思い出。戦争が近づくと志願して整備兵になり、飛行兵の応募にチャレンジして大卒者の中でただ一人兵隊で合格する。第二次世界大戦にはP-51ムスタングに乗ってヨーロッパ戦線で戦い、1回の出撃で5機を撃墜する。フランス上空で撃ち落とされるがレジスタンスの手によって帰還。その後も嘆願して戦線復帰。戦後はテストパイロットとして180機以上の飛行機を操縦した。

それらのいきさつはそれこそ自伝に詳しく書かれているので端折るが、最後は少将になって退役する。つまり二等兵から将軍にまで登り詰めるのだ。これは少しでも軍隊に知識を持っている人はわかると思うが、小説の中でしかありえないようなことなのだ。軍隊は2層になっていて、兵隊は二等兵からスタートし長い軍隊生活を経てせいぜい准尉だが、将校はいきなり少尉からスタートする。二等兵(整備兵)から将軍になるというのはありえない物語なのだ。しかし、それを可能にするような「仕事」をしたということだ。

この自伝は、イエーガーとプロの作家の共著になっている。さまざまなエピソードがイエーガー自身の口で語られるが、そのエピソードについてのグレニス夫人や周囲の人の語りとで多面的に構成されている。イエーガー自身の語りは、おそらくそのような性格なのだと思われるが、淡々と事実が連ねれらるだけ。そこに周囲の人の感情が被さってくるので、これもなかなか面白い。

イエーガーの自伝は『ライトスタッフ』公開時と重なり、アメリカでは「アイアコッカ」自伝を上回るベストセラーになったという。アイアコッカはフォードの社長でクライスラーを立て直し、当時本屋に山積みされていたのを私も覚えている。

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写真は戦争中にお互いが持っていたというチャックとグレニス夫人の写真。

1990年イエーガーは最愛の妻であるグレニス夫人を癌でなくす。この本でも癌と戦う夫人の言葉が掲載されている。しかし、2003年に女優ヴィクトリア・スコット・ディアンジェロと再婚し、娘をもうけたとwikiに書いてあった。とすると、1923年生まれだから80歳で再婚し子供をつくったということになる。これまたすごいや。

『ライト・スタッフ』も観なくては!






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