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杉田庄一物語 その44(修正版) 第五部「最前線基地ブイン」 航空撃滅戦

 日本海軍は米軍機動部隊が十月二十六日の南太平洋海戦で大きな損害を出したとみて十一月十二日から十五日にかけてガダルカナル島へ艦砲射撃を行おうと計画する。

 大きな作戦の前に制空権を確固たるものにしておきたいということでしばしば航空撃滅戦が行われた。これは、海戦でも陸戦でも作戦遂行上、航空機が欠かせないようになっていたことの表れでもあった。ガダルカナル島への艦砲射撃を行う前にも、ラバウルにあるすべての基地攻撃隊に「航空撃滅戦」が発令されたが、連日天候が不良で出撃がかなわなかった。

 十一月十日、ようやく天候が回復し小福田少佐率いる二〇四空の零戦十二機と岩城万蔵飛行特務中尉率いる空母『飛鷹』の零戦隊六機がガダルカナル島上空に向かったが、敵機は飛行場から退避していた。空母『飛鷹』はこのとき、十月に起きた発電室の火災修理のためにトラック泊地におり、搭載機のみがブインにとどまっていた。そのためしばらく、二〇四空と合同で作戦行動を行うことになったのだ。

 十一月十一日、宮野大尉率いる零戦隊六機と兼子正大尉率いる飛鷹隊十二機が艦爆九機を護衛してガダルカナル島に進出し、敵機約三十機と交戦した。また、敵の輸送船一隻にも損傷を与えたが、飛鷹隊の吉原勇二飛曹と森田利男二飛曹が戦死している。

 今回の出撃はガダルカナル島飛行場砲撃を行う「第五次挺身隊」のために、敵飛行機を一掃しておくという「つゆはらい」としての役目であった。飛鷹隊は、「米軍機撃墜二十五、駆逐艦一隻、輸送船一隻撃沈(零戦三、艦爆四喪失)」と報告している。日々空戦に明け暮れていて、戦果報告にシビアな二〇四空からの報告とかなり差があった。連合艦隊司令部では、陸上部隊(二〇四空)からの報告と比べて戦果が過剰過ぎないかと困惑していた。宇垣纏司令長官は「全然別個の一群存在するや否や総合判断に苦しむ」と記している。過剰すぎる戦果報告は作戦立案に影響するまでになっていた。

 十一月十二日、前日に引き続きこの日も二〇四空十二機と飛鷹隊六機が輸送船攻撃艦爆隊援護という任務で十時にブイン基地を出発した。しかし、天候不良のため十二時三十分に基地に引き返すことなった。その間、敵機と会うことはなかった。杉田は、第三中隊第二小隊二番機として出撃している。一番機は日高義巳上飛曹、三番機は上平文治飛長、総指揮官は小福田少佐だった。

 この日は、内地からきた二五二空もラバウルから陸攻隊の援護任務で初出撃し、敵と遭遇している。雷装の陸攻十九機がルンガ泊地の敵艦戦を攻撃、重巡洋艦「サンフランシスコ」や輸送船に被害を与えた。しかし、陸攻十二機が自爆または未帰還、五機不時着という損害も出てしまう。七人乗りの一式陸攻がこれだけの損害を出すと膨大な戦死者がでてしまうことになる。

 前述のようにこの二五二空には宮崎勇がいた。このときのことを次のように自著「還って来た紫電改」(宮崎勇、光人社)に記している。

「敵は、地上や艦船からの対空砲火で、この陸攻隊を叩き落とそうとするうえ、しばしば戦闘機もくりだして襲いかかってくる。しかし、陸攻隊は小回りがきかず、空戦性能はグンと落ちるため、相手の戦闘機には、われわれも戦闘機で対抗して戦うわけである。
 目的地に入る。約二十機の一式陸攻が海面スレスレまで高度を下げて敵船団に接近する。われわれは陸攻隊の上をおおうようなかたちで突っこんでいった。
 敵艦は、激しい対空砲火で応戦してくる。グルグルと円形を描いて、われわれの攻撃を回避しながら、白、黒、赤、青・・・いろいろな弾幕を張る。一式陸攻はその弾幕を突っ切って攻撃をくりかえす。しかし、一機、二機と撃たれ、火を噴き、力尽きて落ちてゆく。
 われわれ零戦隊には、敵のグラマンF4F戦闘機群がうしろから襲ってくる。上空では零戦とグラマンの空戦、その下では陸攻隊がつぎつぎに火を噴く。じつに、凄まじい」

「還って来た紫電改」(宮崎勇、光人社)


 宮崎は、当時すでに一飛曹であった。第一小隊三番機として出撃し、この日グラマンを一機撃墜している。一式陸攻を追いかけているグラマンを発見し、反行する形で銃撃。急降下して逃げる敵機を追って銃撃を続け、ジャングルに墜とした。全弾を撃ちつくし、予想以上に低空まで降りていた。基地に戻ると小隊長の菅波政治大尉より「あんなに敵機を深追いするとは、何事か!」と叱られている。

 宮崎は、杉田とほぼ同じ時期にラバウルに着任した丙二予科練出身者である。横須賀空戦闘機隊で、日本海軍にはじめて導入しようとしている四機編隊空戦の研究と訓練に従事した。その後、四機編隊空戦を普及する任務を兼ねて前線に引き抜かれ、ソロモン、ニューギニア、マーシャル群島、硫黄島、フィリピンと戦い抜き、のちに三四三空で杉田と共に戦闘三〇一に所属することになる。

<引用・参考>


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