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冬が好きになった理由

大人になるまで僕は冬が嫌いでした。
喘息に苦しんだ小学校と中学校、
凍った坂道を自転車で通う高校など嫌な想い出が多かったからかもしれません。
 
なにより築100年以上の自宅。
当時は、よさがわからず、
隙間風だらけの家が大嫌いでした。
エアコンもファンヒーターもありません。
母に叱られるまで、コタツの中から出ることはなく、
食事の際は石油ストーブの前から離れませんでした。
部屋では電気ストーブを足元にくっつけすぎて焦がしたことも。
眠る時でさえ、ベッドに豆炭アンカ(小さく丸めた石炭が入った湯たんぽのような暖房器具)を持ち込み、足に挟んで眠っていたのです。
 
20代半ばに入り旅が中心の生活になってからも、冬は苦手でした。
大道芸を使った子どもショーなどで、冬の東北や北海道に出掛けてはいくけれど、
冬は可能な限り南の地で過ごすことを選んだように思います。
映画「男はつらいよ」の寅さんのように。
 
海外旅も多くなり、
氷点下のニューヨークの公園を散歩しながら、
「引き締まるような冷たい空気が好きなんだよなぁ」
とコーヒーをすする文芸評論家、
スウェーデンの山奥で、
「ダイヤモンドダスト、最高!」
と犬ぞりに乗りながら叫ぶ冒険家など、
氷点下でも「楽しい」と思う人たちと出会ううちに、「寒い日も楽しいかも」と思い始めました。
単純なんですよね。
 
一昨日、テレビでお見掛けした山岳ガイドの熊崎さんを見ながら思い出したんですよね。
彼も旅番組で冬山の楽しみ方を教えてくださった一人。
 
ワカン(輪かんじき)で歩く感覚、
雪が音を吸収し、無音に近い空間、
新雪の中に寝転んで見た空、
氷瀑(凍った滝)を眺めながら飲んだ温かい飲み物。
 
「冬だからこそ感じられるんですよ」
 
熊崎さんの、あの言葉は忘れられません……とファンヒーターに当たりながら、綴っていると罰があたりそうなので、今、消しました。
今朝は温かいんですけどね。
 
写真は、収録時、滞在していた「旅館御岳」の大浴場(濁河温泉)。
160段の階段を下っていって入る露天風呂もよかったなぁ。
残念ながら、その後、閉館になってしまったそうです。

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