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初めて「ほか弁」を食べた日のこと

18歳まで、「のり弁」を食べたことがありませんでした。
そもそも温かいご飯が入った弁当を知らなかったのでしょう。
僕の中では弁当と言えば、幕の内弁当や駅弁のような冷たい弁当でした。
 
大学生になり、アパートで一人暮らしを始めた春のことです。
入学式前で、まだ知り合いはいません。
一緒に入学した幼馴染みが同じアパートの1階に住んでいたので、よく、ご飯を一緒に作って食べていました。
と言っても、彼がほとんど料理してくれていたのですが。
 
夕方、一階の彼の部屋に行くと鍵がかかっています。
特に夕食を食べる約束をしたわけでもないので仕方がありません。
 
仕方なく、アパートから30秒ほど先にある大学の学食に向かいます。
春休み中で営業時間が短縮されていたのか締まっていました。
 
ここで浮かんだ選択肢は二つ。
部屋でカップラーメンでも食べるか、
それとも不動産屋から教えていただいたアパート近くの飲食店に入るか。
「よし!」と後者を考えたのです。
 
大盛りドライカレーが有名な喫茶店、大盛り天丼が有名な食堂、
どちらも前を通りますが、店内の様子が見えず、なかなか扉を開けられません。
今でこそ、「ひとりメシ」は当たり前ですが、18歳の僕にとっては大冒険だったのです。
躊躇しながら店を迷っていると、ほっかほっか亭、通称「ほか弁」を見つけました。
 
学生が何人か店舗先に立っています。
友達同士ではなく、それぞれ「ひとり」で。
妙な仲間意識を感じ、吸い込まれるように僕も向かっていました。
 
歩きながら、聞いたことのある「のり弁」を思い出します。
かつおと醤油でまぶした猫まんまのご飯の上にのりを敷き、
白味魚のフライと揚げちくわがが載り……雑誌の解説つきイラストで見た覚えがあったのでしょう。
 
昨晩、妙に「のり弁」が食べたくなり、
ナポリタンスパゲッティが入っている豪華なのり弁をつまみに缶チューハイをすすりながら当時を思い出していました。
でも、あの時は、結局、のり弁ではなく、から揚げ弁当を頼んだんだよなぁ。

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