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近所づきあいは面倒なこともあるけど、いいことの方が多い

4年ほど前のことです。
宮城県は浦戸諸島の桂島に滞在していました。
記憶を辿りながら。
 
それからさかのぼること、10年ほど前、トランプ旅で訪れていました。
行き先を決めないミステリーツアーのような旅で青春18きっぷを使った遊びです。
トランプが出たマークで路線を、出た数字で降りる駅や乗る時間を決めて進んでいきます。

ある時、トランプ旅で東北に向かったことがありました。
松島まで来たところで夕方になります。
その日、宿泊する場所を探さなくてはなりません。
一緒に旅していた雑誌編集長の子どもがトランプをひくと「東」が出ました。
「宿あるのかなぁ……」
4人で海を見つめます。
 
まだスマホもない頃で、雑誌編集長がガラ携帯で電話をかけまくり、ネットワークを駆使し、泊めていただいたのが桂島の民宿。
高齢者の女性が一人でやられていました。
1カ月前に旦那さまを亡くされ、宿をしめることを決めたところだったのです。
僕たちが最後のお客さんとして招き入れてくれました。
 
東日本大震災が起きた時、お世話になったおばさまは大丈夫だったかなぁと頭を過りました。
しかし、連絡先も宿の名前も憶えていない僕は思っただけで行動には移さず、
伺ったのは、震災後7年ほど経ってから。
 
当然、その民宿はなく、そこから少し先のペンションに滞在することにしました。
僕が当時、お世話になった民宿のおばさまは、塩釜市の施設で暮らしていることをペンションの女将さんが教えてくれます。
 
そして、東日本大震災の想い出を話してくださいました。
桂島にも津波は押し寄せました。
高台に避難しながら、ご近所同士、声を掛け合います。
「○○さんは?いない?連れてくる!」
 消防団の方が呼びに行き、連れてきたらしい。
こうして桂島では、一人の死者行方不明者を出さなかったのです。
 
「近所づきあいは面倒なこともあるけど、いいことの方が多いのよね」
 ペンションの女将さんが、窓から見える海を眺めながら、つぶやきました。

現在は防波堤ができ、当時とは景色が、すっかり変わりました。

 

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