ひきこもりが元気で幸せになる道をいろいろ考えてみました①
(ひきこもり大国ニッポン2019、改題)
(石川清)
僕は2000年頃からひきこもり支援にたずさわっています。主に訪問支援や家族教室、若者の集いなどを埼玉県朝霞市で行っています。訪問支援の範囲はほぼ関東全域となっており、またひきこもりの当事者と一緒に、国内各地や海外へ一緒に旅行に出かけたりしています(というか、趣味や仕事が旅だったりします)。
僕はNGOのピースボートが実施している洋上フリースクール「グローバルスクール(Global School)」の活動に協力していて、よくナビゲーター役として10日〜4週間ほど、旅の初めに乗船しています。
グローバルスクールでは、不登校やひきこもり経験者をはじめ、広く生きづらさを抱えて悩む人たちが参加して、いろいろな人たちと一緒に旅をしながら、何かを探したり、仲間とのんびりしたり、異国の路地裏をぶらぶらしたりします。世界一周の場合、3ヶ月余りの期間がかかります。その間に、多くの長期ひきこもり状態に陥った人が獲得できなかった、仲間や親友といった存在を自然に獲得できることがあります。
こうしてそれまでの人生と違う自分に変わることができた人もいます。まあ、そういった成果を保証できるわけでもないのですけれど(笑)。でも、大勢が変わっています。
さて、そんなピースボートに乗っている時、僕はほぼ毎回「ヒキコモリ大国ニッポン」という講演をしています。このタイトルはもう10年前についたもので、果たして今の時代に適したものかどうかはわかりませんが、ただ10年前にはこういう認識だったということを忘れないという意味では、思い入れのあるタイトルの講演となっています。
さて、2018年以降、ピースボートも海外の旅客が多くなり、講演で話す内容を事前に原稿でまとめて、事前に数カ国語に翻訳しておかなければいけなくなりました。そこで、2019年12月〜2020年1月に僕が乗船している期間に講演した内容の要旨を、せっかくですので、noteで発表したいと思います。
僕のひきこもり支援について考えている要旨や一部をまとめてありますので、何かの参考にしていただければ幸いです。
この発表の収入については、ひきこもり支援活動の資金として大切に使わせていただきたいと思います。この原稿を書いているのは2020年の2月下旬で、実は新型コロナウィルスの感染拡大で、日本国内も大混乱の最中です。僕が埼玉県朝霞市で主宰しているCVN(コミュニケーション・ボランティア・ネットワーク)の毎月の家族教室も2、3月を中止と決め、4月もどうなるかわかりません。
家族教室は補助や助成をほとんど受けていない僕にとって、重要な自己財源なのですが、思わぬ事態にちょっと困り始めています。もしよければ購入やサポートなど、よろしくお願いいたします。
また、トータルの分量が原稿用紙で50枚近くになったため、3つか4つに分けて、発表する予定です。
2020年2月25日 石川清
全体の目次
1)ひきこもりとは何か?
2)ひきこもりは日本にどれくらいいるの?
(以上は今回掲載されている部分です)
3)ひきこもり支援の問題点
4)20年の小さな支援で見えてきた多様なタイプ
5)ひきこもりの早期回復や改善のこつ
6)アジアを歩いたひきこもり
1)ひきこもりとは何か?
最初に言っておきたいことがあります。
今日、僕がこれから話すひきこもりについての説明は、ほとんどの場合、状態や症状のかなり重い人について述べるものです。一口に“ひきこもり”と表現しても、その実態はとても多様です。もともと状態を表す言葉ですから、いろいろな状態や症状の人が含まれるのは、仕方のないことと考えています。
ですから、僕は細かく“ひきこもり”を定義せず、ひきこもり状態に陥って、本人や周囲が困っていると感じている場合は、すべて支援の対象(つまり、“ひきこもり”)と考えることにしています。
これまでのひきこもり支援の歴史を振り返ると、なぜか少なからぬ場合、ひきこもりの定義を議論していくと、なぜか重篤な症状や状態の人、あるいは支援や治療の際に手間のかかるような人が排除されていくことがあったからです。
僕の場合、個人での活動なので、マンパワーや距離での限界は残念ながらあるのですが、重いから、面倒だからという理由で支援をしないということはしたくありません。とはいえ、あくまでできる範囲内の支援しかできないわけで、たいして偉そうなことは言えないのですけれど。
さて、ところでピースボートには不登校やひきこもり経験のある若者も参加しているグローバルスクールがあって、僕はそのナビゲーターをしています。
グローバルスクールの生徒たちは、4人部屋のピースボートに乗船しているわけで、生徒たちは決して症状は重くないし、そもそも病理的な症状などまったくもたない人もいます。生きづらさや、慢性的な不安を抱えながら、どうやってこれからやっていけばいいか、一時的に迷って、グローバルスクールに参加した人が多くあります。
だから、これから話す重篤なひきこもり状態の人への支援の話と、グローバルスクールの生徒を短絡的に結びつけて考えたり、誤解しないでほしいです。
そのうえで、話を進めたいと思います。
日本で「ひきこもり」の人たちが多く発生し、その問題が表面化したのは、1990年代の終盤にさしかかった頃のことです。
ひきこもりとは、そもそも外に出られなかったり、内にこもりがちの人をさす“状態”をあらわす言葉です。病名ではありません。だから実に多様な、いろいろなタイプの人がひきこもっていることになります。
僕は2000年から“ひきこもり”と関わり合うことになりました。
まず世間で言われている、ひきこもりの定義を簡単に説明しましょう。初めてこういった文章を読むとき、何がひきこもりかということを、まったく触れないで話をすすめるのもわかりにくいでしょうから。(さっそくさっき書いたことと矛盾してしまうようで、どうもすみません。まずは読み進めていただければ幸いです)
厚生労働省が2010年以降、説明しているひきこもりの定義のポイントは以下の3つです。
1)学校に行かなかったり、アルバイトなどの労働もせず、家族以外の他人とほとんど接点を持っていない。
(ただし、現在では他人と接点を持てても、長期間社会参加に至らない事例が多数発生しています。この定義に必ずしも縛られないで対応することも、支援の現場では重要なことです)
2)そんな状態が6ヶ月以上続いている。
(この期間もせいぜい目安程度に考えていただければ幸いです)
3)本来、統合失調症は含めないが、実際には統合失調症を患っている人も含まれることがある。
(統合失調症には、病識(びょうしき:自分が病気だという自覚)がない人が多くいます。だからなのか、自分は病気なんかではないからと、かたくなに治療や支援を拒む人もいます。
ですから、医療機関との連携も重要となりますし、ケースによってはしばらくの間は医療機関と関われないこともあります。頭から医療機関とつなげようとすると、頑なな拒絶にあって、支援が途絶してしまうからです。それは、本人や家族をいっそうの孤立に追い込むことがあります。
ここから先は
¥ 200
サポートしていただければ幸いです。長期ひきこもりの訪問支援では公的な補助や助成にできるだけ頼らずに活動したいと考えています。サポート資金は若者との交流や治癒活動に使わせてもらいます。