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背番号10の見えている世界にようこそ (2021ACL第3節・ユナイテッド・シティFC戦:8-0)

 今からちょうど半年前。2021年、元日のことだ。

決勝戦で難敵・ガンバ大阪を1-0で下した川崎フロンターレはクラブ史上初となる天皇杯を制覇している。

 表彰式では、現役ラストゲームとなった中村憲剛が、キャプテンである谷口彰悟から天皇杯を渡され、それを高々と掲げた。次の瞬間、黄金のテープが一斉に舞い上がっていき、18年にも渡った中村憲剛の現役生活は、最高の景色を目に焼き付けながら幕を閉じた。

 その試合後のこと。
オンライン会見に現れた選手の1人が大島僚太だった。試合の振り返りや、天皇杯優勝に関してコメントした後、最後に中村憲剛の存在について質問が飛んだ。

 画面越しの彼は「本当に・・・」とつぶやいたあと感極まって言葉が出なくなっていた。

 自分が知る限り、過去の優勝シーンでも大島僚太が涙を見せることはなかった。チームの中心人物であるにも関わらず、表彰台での彼はいつも端っこの位置で、控えめに喜んでいた記憶しかない。しかし中村憲剛との別れは、優勝とは別次元の感情なのだろう。

 10秒ほどの沈黙の後、涙をこらえながら、その思いを絞り始めた。

「いなくなることが信じられないです。それぐらい一緒にプレーしている間に、たくさんのことを教えてもらった。あれだけ愛されるサッカー選手はなかなかいないと思います。僕もケンゴさんを愛していた一人だと思います。今後もケンゴさんのことを思い出すと悲しくなると思いますが、ただケンゴさんが次のステージに進むと胸を張っておっしゃっていた」

 溢れ出た思いを言葉で出し切ると、最後は自分自身の強い決意を添えた。

「チームとしても、自分自身、今後は負ければケンゴさんかなと言われることもあると思うので、そこは何くそと思って、自分が引っ張っていく覚悟を持って戦っていきたい。ケンゴさんには感謝しかない。どういう存在と言われたら難しい。全て教えてもらった選手なので、感謝しています」

 その後にオフを挟み、始まった2021シーズン。
中村憲剛がいない川崎フロンターレは、昨年と変わらぬ快進撃を続けた。だが、そのピッチには大島僚太もいなかった。開幕前の右腓腹筋肉離れにより、長期離脱を余儀なくされたからである。

 ピッチに戻ってきたのは、6月末に始まったACLの舞台からだ。大邱FC戦と北京FC戦で途中出場を果たすと、7月2日のユナイテッド・シティ戦では待望のスタメン復帰。

 元日のあの涙と覚悟から、ちょうど半年が過ぎていた。

 どんな思いを抱えながら過ごしていたのか。ユナイテッド・シティ戦翌日に行われたオンライン会見で訊くと、その思いを大島は明かし始めた。

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