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「魂のルフラン 」 (リーグ第31節・FC東京戦:1-0)

約4ヶ月ぶりとなる本拠地で開催されたリーグ3連戦は、どれもドラマティックだった。

 最初の湘南ベルマーレ戦では、すでに足をつっていた知念慶がほぼラストプレーに近い土壇場にヘディング弾を決めて劇的な逆転勝ちをおさめている。よく見ると、嬉しさと痛みでその場で動けなくなっていた知念慶を祝福しにきたはずの脇坂泰斗も、その場で一緒に足をつって必死に伸ばしていた。

 激闘から中2日で迎えたヴィッセル神戸戦では、前半に先制されながらも後半にギアを上げてまたも逆転勝ちをした。

 同点弾を生むPKと、逆転弾となるオウンゴールを誘発する鋭いクロスをあげる凄みを見せたのは、限界を迎えていたであろう山根視来だ。試合に出場できるかどうかすらギリギリの判断だったという山根視来は、足の痛みのある箇所をかばい続けていたことで違う部分に痙攣を起こし、珍しく途中交代になった。

 終盤には、PKを失敗していた家長昭博がダメ押し弾を決めている。
試合前日、選手の中で一番最後まで残ってシュート練習を打ち続けていたベテランの姿を見て、指揮官は「本当に止めようかと思った」と後に苦笑いしている。だが、納得するまで打ち続けていたその角度からゴールが生まれた。身を結んだ家長本人は「練習は嘘をつかないな」と試合後に微笑んでいた。

 そして5連戦のラストを飾ったFC東京との多摩川クラシコ。
帰国後の隔離期間によるホテル暮らしはようやく終わったが、中2日で試合が迫っていたので、一息入れるほどの余裕はない。乗り込んでくる相手は、中6日で休養十分だ。当然ながら、ピッチでは苦しい展開を余儀なくされた。だが後半は防戦一方になりながらも、レアンドロ・ダミアンが前半終了間際に決めた虎の子の一点を、執念を感じるほどの熱を発しながら守り切った。

 試合後のオンライン会見で印象的だったのは、敵将・長谷川健太監督の言葉だ。
ガンバ大阪時代に国内3冠の偉業を達成したこともある名将は、開口一番に「悔しいです」と切り出すと、決定機自体は自分たちの方が多かったことを挙げながらも、ワンチャンスをモノにする王者・川崎フロンターレのしたたかさと、最後はゴールを割らせない粘りに感服した様子だった。

「決定機を身体を張って防ぐ、チャンピオンチームの素晴らしい気持ちの部分。最後までしっかりとした緻密なチーム戦術が落とし込めている」

数多くあった決定機の中でも、指揮官がもっとも決めて欲しかったのは、おそらく74分の場面だろう。

 中盤でかパスカットした中村拓海から繰り出された1本のパスが、センターバックの車屋紳太郎の背中にできていた広大なスペースに届く。後半から入っていた永井謙佑は自慢の快速を生かしてそのボールに追いつく。オフサイドかと思われたが、川崎の最終ラインは逆サイドに山根視来が残っていたことで、わずかなギャップが生まれていた。オフサイドはない。

 完全に抜け出した永井謙佑の相手は、最後の砦となったチョン・ソンリョンだけだった。リーグ屈指のスピードスターは、この1対1の局面でシュートを選択せず、トラップすることで一気にかわしに行く。

 だが構えるチョン・ソンリョンも冷静だった。
不用意には飛び込まず、シュートコースを消しながらも、ギリギリまで我慢。左に逃げて揺さぶりをかけてきた永井謙佑に、鋭く追いすがった。そしてシュートを打つ瞬間は、その大きな身体を投げ出しながら必死に手を伸ばして食い下がっている。

 それでも、永井謙佑のシュートはチョン・ソンリョンの手をすり抜けた。記者席で見ていた自分は「あぁ・・・やられた」と顔を歪め、次の瞬間には、等々力を埋めた観客から悲鳴とため息が漏れてきても、なんらおかしくなかったはずだ。

 だが、無人のゴールネットに吸い込まれていくだけの軌道を描いていたボールは、何者かによってゴールマウスの外にはじき出されていた。

・・・ジェジエウだった。

レアンドロ・ダミアンやジョアン・シミッチに比べると、ピッチ外ではやや集合時間にルーズだというブラジル人は、ピッチ内でのピンチには、誰よりも早く駆けつけるザゲイロでもある。そしてこの勝敗のターニングポイントになった決定機も、間一髪でクリアしたのだ。

「ケンスケ(永井謙佑)がGKを抜いてジェジエウがカバーしたのは、ジェジエウが素晴らしかったと思います」

 試合後の長谷川健太監督も、その名前を挙げて認めたほどのビッグプレーだった。

 思えば、今週のヴィッセル神戸戦に向けたオンライン囲み取材でのこと。
ジェジエウが語っていたコメントの中に、彼らしい言葉使いをにじませていた部分が気になっていた。

(※10月6日に車屋紳太郎のコラムを追記しました。→初めての多摩川クラシコで味わった苦い記憶と、そこから積み上げたもの。エースでなければ、ゲームの主役でもない車屋紳太郎が、証明してきたもの。)

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