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「キリフダ 」(リーグ第29節・徳島ヴォルティス戦:3-1)

「厳しい時間帯もあったし、最後はすごく劣勢でしたが、しっかりと全員が身体を張って、最後まで気持ちのこもった試合になったと思います」

 試合後、オンライン会見に現れた脇坂泰斗は、チームの戦いぶりをそう振り返っていた。

 この日の彼は絶妙なコースを狙ったコントロールショットで勝ち越しゴールを決め、後半には勝利をぐっと引き寄せる3点目のCKも自らアシスト。どちらも自身が持っている精度の高いキックをゴールに結びつけた形だ。

 ただこの試合に限っていえば、川崎フロンターレの選手たちのプレーぶりで目を引いたのは「巧さ」ではなかったかもしれない。むしろ「力強さ」の方だ。

 特に2点リードしてからの後半のピッチ上の選手たちは、技術の違いで相手を上回ることよりも、泥臭く戦って勝ち点3をもぎ取ろうとしていた。

 戦術的な分析も大事だが、「奪われたら全力で奪い返す」、「最後のところで身体を張る」、「粘り強く戦い続ける」といったメンタリティー・・・・平たく言えば、「ど根性」をピッチのいたるどころで表現していたようにも見えた。アディショナルタイムは6分にも渡ったが、最後まで失点することなく2点のリードを守り切って、徳島の地で首位をキープする勝ち点3を噛みしめている。

 試合後の鬼木監督が褒め称えたのも、選手たちの泥臭い頑張りだった。

「最後は苦しい状況でしたが、ああいう戦いをしようと決めていた中で、身体を張ってくれました。それもACLで身体を張ってくれていましたので、自信はありましたし、このゲームで生かしてくれたのではないかと思います。非常によくやってくれたと思います」

 不思議なものだが、ACLの決勝トーナメントで敗退した後の試合というのは、なぜかそういうしぶとい勝ち方をすることが多い気がするのだ。

 一番よく覚えているのは、2009年シーズンのこと。
今から12年前だから、もはや昔話かもしれない(でも我慢して読んでほしい・笑)。

この年も国内3冠とACLを勝ち進んでおり、9月に過密日程のピークを迎えていた。そしてベスト8まで進んだACLだったが、日本勢同士となった名古屋グランパス相手に逆転負けでベスト8敗退。その敗戦から中三日で迎えたのが、第28節・横浜F・マリノスとの神奈川ダービーだった。

 相手はインターバルがありフレッシュな状態。こちらは連戦で疲労困憊である。しかも敗退のショックが残っている中での一戦だ。

ただこの試合で関塚監督がピッチに送り込んだスタメンは、ACLの名古屋グランパスとまったく同じ顔ぶれだった。負けてもメンバーを変えない、むしろ悔しさをぶつけろという強烈なメッセージを受けた選手たちは、執念とも呼ぶべき戦いを見せて横浜F・マリノス相手に勝利をおさめている。

 この試合後、チームの発揮したメンタルについて述べた中村憲剛の言葉は、今でも印象的だ。

「ここで落ちていくのは簡単だけど、もうひと踏ん張りしようと思った。だから、今日は戦術うんぬんじゃなくて、意地でした。キツイのはわかっているけど、それでもみんな歯をくいしばって戦うことができた」

 なんでもそうだが、怪我や疲労など負けた時の言い訳探しはいくらでもできる。しかし試合に出ている以上、それを許さない強さを持てるかどうか。最近だと、2017年にACLベスト8で浦和レッズに敗退した直後の、リーグ戦清水エスパルス戦もそんな戦いぶりだった。

 セットプレーで得点し、粘り強く勝利。そこから踏ん張り続けて、この年の最後の最後で劇的なリーグ初優勝を遂げている。苦しい時に、言い訳を探さないメンタルは、タイトル争いに必ず生きてくるのである。

 そしてこの試合である。

冒頭でコメントしていた脇坂泰斗は、2018年に加入した選手だ。2009年や2017年の時期を選手としては体現していない。しかし、このクラブが悔しい時に発揮してきた「たくましさ」みたいなモノは、彼もまたしっかりと受け継ぎながら、ちゃんと兼ね備えているのだろうなとも思った。

※後日取材により、9月20日に追記しました

■「スピードはあると思ってましたが、『あっ、もっと速いんだ(笑)』と。やっぱりそこらへんはあるのかなと思いました」」(鬼木監督)。ブラジル人選手が本番で違う顔を見せる背景に関する指揮官の見解と、マルシーニョを生かした味方のスペースメーク術を読み解く。


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