稲本潤一の「間合い」の秘密〜ボールを奪うときのタイミングと身体の当て方。そして海外で試行錯誤した経験の話。
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稲本潤一の「間合い」の秘密〜ボールを奪うときのタイミングと身体の当て方。そして海外で試行錯誤した経験の話。


 とある企画で稲本潤一に「ボールを奪う」という技術をテーマにロングインタビューさせてもらったときのことです。

 普段の囲み取材では、技術論の深い部分まではなかなか聞けないですから、こういう機会に彼の頭の中を覗いてみたいと思い、彼の「間合いに関する感覚」について掘り下げて尋ねてみました。

 彼の「間合い」は独特で、例えば球際で、相手とはほぼ五分五分で「ガチャッ!」とぶつかった場面があっても、そのこぼれ球は、ほぼ必ず稲本潤一のほうに転がるという現象が起きるんですね。

 あるいは、ボールを持っているのが相手のほうにもかかわらず、局面での駆け引きの主導権が稲本潤一にあるかのように、相手の足元からボールを奪い切ってしまう出来事が起こるんです。

 何度見ても、いつも不思議だったんですよ。
この二つの現象を例に挙げながら、その「間合い」に関する具体的な質問をしていきました。

 稲本選手は「・・・よくそこまで観察してますね」とでもいいたげな表情を浮かべながら、「ボールを取れるときと取れないときの感覚があるので、それを口で言うのは難しいのだけど・・・・」と前置きしながら、こんな風に話し始めてくれました。

「タイミングと身体の当てどころかな。特にボールよりも先に身体を当てて奪っている部分はありますね」

・・・やはりタイミングと身体の当て方、ですか。そしてこれを聞いた瞬間に思い出したことがあります。

それは都並敏史さんが引退を決断したときのエピソードです。

 なぜか。
というのも、都並敏史さんの現役引退の引き金になったのが、当時Jリーグデビューしたばかりの高校生・稲本潤一に弾き飛ばされたから、と言われていたからです。もう15年以上前の出来事ですね。ちなみにこの詳細と真相については、NAKATA.NETという番組で都並さんが明かしています。

(※その時の談話を文字起こしして紹介してます)

——ガンバとの試合で、都並さんが稲本に飛ばされたのが引退の引き金っていう・・・・

都並:あれは飛ばされたんじゃないんですよ。ここはちょっと喋りたいところなんだけど(笑)

僕はね、96年の時点ですでに代表復帰はキツイなぁと思いながらも、とりあえずサッカー好きだし、サッカーでお金を貰えるなんてステキなことだし、がんばっていこうとやっていたわけです。
もちろん自分の力が落ちてきたのは知っていたけれど、絶対負けてない部分っていうのが僕にはあったわけですよ。それは読売のグラウンドで身につけたものなんだけれども。

要するに、どんなにうまい選手が出てきても、読売育ちの選手はこういうプレーだけは負けないよっていう自信があったんです。例えば、駆け引きであったり、アタマの使い方であったりとかね。ほかの選手は、それができなかったわけですよ。

それまで僕が日本代表として、あるいはJリーガーとしてやってこれたのも、そういう自信があったからなんですよ。運動能力は高くないけれど、読売育ちならではの長けている部分、それがあったから長くやってこられた。

—-具体的には、どんなプレーなんですか?
都並:ひとつ例をあげるとね、たとえばAとBという選手が五分のボールに対して、お互いに体を当てながら取りにいくとしますよね。同じタイミングで当たったら、絶対に体の大きいやつのほうが勝ちますよね。

だけどタイミングをずらすことによって、ちっちゃいヤツでも勝てるわけですよ。相手が来る直前に早めに当たってしまうとか、相手が来たのをいなしてから当たるとか。踏ん張るタイミングさえ外せば、人間ってのは簡単にバランスを崩しますからね。それが僕ら読売育ちの選手のテクニックだったわけですよ。

でも稲本くんは、こっちがタイミングずらそうとするのをすでに読んでた。僕が当たろうとするタイミングをいなされて、先にボールに入らされちゃったんですよ。これはね、クラブ育ちならではのプレーなわけですよ。

—-なるほど
都並:稲本くんって大きいでしょ、うまいでしょ、速いでしょ、ファイトもあるでしょ、細かいテクニックもあるでしょ、しかも顔がいいときた!(笑)これは負けるなと。こういう選手が出てくると、ちょっとオレらは厳しいゾと。次世代の時代になったのかなぁって、ホントに思いましたね。それで「もうダメだな、今年だなぁ」と・・・。


 (紹介終わり)

 この技術と駆け引きに関する話は、興味深かったのでよく覚えています。
クラブ育ちの選手の武器である、タイミングをずらして身体を当てて奪うワザを仕掛けたら、逆にそれを若手にやられて吹き飛ばされてしまった。元日本代表のベテランが、高校生の若手相手に、です。言い換えると、稲本潤一はボールを奪うときのタイミングと身体の当て方を、この年代からそのレベルまで磨き上げていたというわけです。いやはや。

 ちなみにこの都並さんとの駆け引きとエピソード、稲本潤一本人に「知ってますかね?」とインタビュー中に聞いたら、「覚えてますよ。常に僕を絶賛してくれる都並さんですね(笑)。当時からボールよりも先に身体を当てて奪うプレーを感覚でやっていたんでしょうね」と懐かしそうにしてました。

 そして「ただこれはギリギリのプレーでもあるんですよ。ボールから離れてますし、1メートル、2メートル先にボールがあれば、主審からファウルと判定されてしまう場面もありますから」なんてことも話してくれました。

 確かに。
試合中、稲本潤一が判定に対してナーバスになったり、熱くなったところは見たことがありません。しかし唯一感情を出して悔しそうにするのが、この「身体を当てながら自分の間合いでボールを奪い切ったプレーをファウルと判定されてしまうとき」でした。

海外と代表で長く活躍して来た彼にとって、Jリーグでのフィジカルコンタクトにおける許容範囲に適応するのは簡単ではなかったと思います。なんだろう。野球でいえば、会心のホームランを打ったのに、それを審判によってファウルと判定されてしまうようなものですからね。

 もちろん、そんな稲本潤一だって順調だったわけではありません。
若くしてプレミアリーグの名門クラブ・アーセナルに移籍するも、自分が目の当たりにしたのは、世界最高峰の選手達との差。「想像していたよりも、レベルが全然違いました」と当時を苦笑するほどでした。

「最初にとまどったのはスピードでしたね。Jリーグでは通用していても、いきなりアーセナルでは通用しないことがたくさんありましたよ。それこそ自分の間合いでも奪えないし、身体をぶつけてボールを奪おうとしても、相手の体幹が強くてビクともしない。そこで、より考えていくようになりました」

 日本では自分の武器であるボールを奪う間合いが、海外のレベルではまるで通じない。思わず「絶望的な気分になったりしませんでしたか?」と聞いてしまいましたが、「うーん、そういう明らかな力の差を感じたくて海外に行った部分もありましたからね。ただ想像していたよりも、レベルが全然違ったけど」と苦笑いしてました。

「でもここでやっていれば、うまくなるというのも感じていたので、楽しさもありましたよ」とわりと楽観的だったようです。まだ若かったですからね。

 当時の試行錯誤の具体例として「例えば、相手の足と足の間からボールを突ついて、自分ではなく味方に取らせるようにしたり、そういうやりかをプレーしながら身につけていきました」と明かしてましたが、大事なのは、壁にブチ当たったときに自分なりにどう工夫していくのか、なんでしょうな。そして、そのトライを楽しむ気持ちなのかもしれません。

「アーセナルではあまり試合に出れませんでしたが、日韓ワールドカップで結果を出せたことは自信にもなりましたし、そこからフルハムに行ったことで、やっていける手応えも掴みました」

 この姿勢の積み重ねが、もしかしたら、日韓ワールドカップでのあのゴールにつながった、もっと言えば、日本サッカーの運命も変えたのかもしれないと思うと、ワクワクしてきますよね。

 ちなみに、稲本潤一が間合いが取りにくいタイプは、「細かくドリブルをしてくる選手」だそうです。フロンターレのチームメートでいえば、レナト。ただし、そういうタイプは中央ではなくサイドにいることが多いので、あまりマッチアップすることはないとのこと。

 あとはボールを持ったときの選択肢が多い。例えば、ガンバ大阪の遠藤保仁。

「ヤットはプレーの選択肢がとても多い印象は受けます。ずっとまわりを見ながらプレーをしているし、ボールを持ってからのドリブルであったり、ボールをもらう角度、アングルを常に考えながらやっていますね。だから、彼が半身を向いてボールを持っているときは極力アプローチに行かない。彼が背中を向いてボールを持った瞬間にいきますね。ただ、そうするとバックパスで返されてしまうんですよ。そのへんはうまいですね。他には俊輔(中村)も同じようなタイプかもしれません。ボールを止めることであったり、置く位置もうまい」

・・なるほど。自分の間合いに持ち込みたいけど、相手が選択肢が多くなると、その分、やっかいなんですね。プロの技術、そして彼らの駆け引きはやはり凄いと感じたわけです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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いしかわごう

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いしかわごう

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僕もスキです!
サッカーと将棋をコンテンツ化するフリーランスです。Number Webなどに寄稿。著書は「将棋でサッカーが面白くなる本」、「川崎フロンターレあるある1&2」など。「サッカー脳を育む」、「サッカー上達のためのマインドとメソッド」など中村憲剛の著書の構成も担当。