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「見上げた高い壁の先」(ACLラウンド16・蔚山現代戦:0-0<PK2-3>)

 「リーグ戦連覇とアジア・チャンピオンズリーグの制覇に挑戦したい」

 シーズン前の新体制発表会見で鬼木達監督が口にしていた今季の大きなチャレンジは、韓国の地で幕を閉じた。Jリーグ王者の川崎フロンターレは、ディフェンディングチャンピオンにPK戦の末に屈する結果となっている。

 だが試合後のオンライン会見に現れた指揮官の表情は、どこか清々しかった。結果に対する悔しさは当然あるだろうが、「やるべきことを出し切った」という思いも少なからずあったのかもしれない。120分間とPK戦を戦い抜いた選手達の頑張りを、素直に労っている。

「選手は本当に必死にやってくれました。最後はPK戦の負けは残念ですが、選手は胸を張って帰って欲しいと思います」

 ゲームは文字通りの死闘だった。
どちらかが攻め続け、どちらかが守り続けることもあれば、一瞬で攻守が目まぐるしく入れ替わりながら、相手の隙を突いていく攻防戦もある。ゴール前のスリリングな駆け引きはあれど、「超」がつくような決定機はお互いに作らせない。ハイテンションかつ強度の高い展開で、とりわけ局面のバトルは見応え抜群だった。

「球際を逃げたら勝ちは拾えない。そこを求めながら、自分たちの技術をどれだけ出せるか。そこの勝負になると思っています」

 ここは戦前の鬼木監督がこのゲームのポイントとして語っていた要素でもある。そして球際の激しさはあっても、お互いにダーティーなファウルはしなかった。UAEのモハンメド・アブドゥラ・ハッサン主審もストレスにならない笛を吹き、両チームの選手はピッチ上のサッカーに集中出来ていた。

90分で決着はつかず、延長戦に突入。すでに限界に達していた選手もいたように見えたが、それでも互いに一歩も譲らないまま時計の針が進んでいく。

 
 その延長戦も後半に入った108分。
きっと限界を超えていたのだろう。センターバックとして獅子奮迅のパフォーマンスを見せていた山村和也が、右脚を気にした直後にピッチに立ち続けることが出来ず、その場に倒れ込んでしまった。

 ルヴァンカップ・浦和レッズ戦での車屋紳太郎と似た現象だ。現在のチームスタイルは、センターバックに多大な負荷がかかっていることも否めない。結局、プレー続行は不可能となり、担架に乗せられることとなった。

 このアクシデントに呼ばれたのは、2度の脳震盪から戦列復帰したばかりの塚川孝輝だ。奇しくも、怪我した大会であるACLの舞台で出番が巡ってきた。緊急出場となったが、交代をする本人の表情に不安の色はないようだった。試合後の彼はこんなこんなコメントを残している。

「残り10分ぐらいだったが、今まで戦ってきた仲間のためにここで落とすわけにはいかないと気合いを入れてピッチに立ったつもり」

 ピッチに入っていくと、コンビを組むジェジエウとハイタッチ。そして彼なりの気合い注入だったのだろう。

ユニフォームのエンブレムを強く叩いていたのが印象的だった。ちなみにピッチを後にした山村和也は、彼にとっては流通経済大学の大先輩である。もしかしたら、流経ダマシイも一緒に注入していたのかもしれないなとか、そんなことも見ていて思った。

※9月17日、後日取材分の総括を追記しました:「自信がなかったわけではない。だからこそ、みんな悔しい」(鬼木監督)。超えなくてはいけない相手を超えられなかった敗退。帰国後の指揮官と選手が語ったゲームの振り返りと大会総括。

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