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相手を釣り出し、広島守備陣の綻びを見逃さずに崩す。布石を打ち続けていた前半と、偶然ではなく必然で攻略した後半の2得点。(リーグ第23節・サンフレッチェ広島戦:2-1)

エディオンスタジアム広島でのサンフレッチェ広島戦は2-1の勝利。

 敵地で首位との直接対決を逆転勝ちしました。
後半に先制されても、慌てず、騒がず、たじろがず。しっかりと追いついて、さらにひっくり返す。見事な戦いぶりだったと思います。現地で記者席から観戦していて、チームとしてのたくましさを感じるほどでした。

 今のチームの雰囲気から感じるのは、選手達の経験値です。「優勝したことがある」というのは本当に大きいのだなと感じます。

 思えば、2年前の2016年の1stステージ、アビスパ福岡戦。勝てば、初めてとなるステージ優勝が決まる可能性があった一戦でしたが、最下位のチームと対峙したフロンターレの選手たちは、敵地で明らかに浮き足立っていました。そして立ち上がりに失点すると、動揺から2失点。追いつくのが精一杯で、2位・鹿島アントラーズに勝ち点差で逆転されると、そのままステージ優勝もかっさらわれました。

 ほんの2年前の出来事ですし、チームの中心メンバーは変わっていません。そういうデリケートな顔を見せるチームでしたが、現在はそういう脆さがありません。それは個々の成長でもありますし、鬼木監督が植え付けたメンタリティーによるものかもしれません。実際、この試合に向けた練習でも、淡々と大一番での勝ちに向けた準備ができていたのは、頼もしく感じました。

 試合後、最後尾からチームを見続けているチョン・ソンリョンに「現在のチームの強さ」の要因を尋ねてみると、彼はこう言い切りました。

「全員の勝ちたい気持ちが強かった。ここに来れなかった選手もいますが、来れなかった選手全員が今は準備をしている。全員が同じ優勝という意識を持っているからこその強さだと思っています。それは去年の経験もある」

 チームとして成熟してきていると言えるのだと思います。

では、ここからは試合に目を向けてみましょう。どうやって逆転勝ちに持って行ったのか。レビューでたっぷりと語っていきます。ラインナップはこちらです。

1.敵陣で攻め筋を見出せなかった立ち上がり。川崎のビルドアップを苦しめた、果敢なハイプレスと受け手へのマンツーマン戦法。

2.「相手のFWに余裕を与えないように、ゴールもGKも見せないようにしました。技術的なことなので、詳しいことは言えませんが(笑)」(チョン・ソンリョン)。制空権を握られてもゴールは許さない。前半の決定機で守護神・ソンリョンが披露した、絶妙な出足と面を使ったシュートストップ。

3.「そこまで頑張るなら無理に突っ込まない、というのもありました」(大島僚太)、「良いかどうかはわからないですけど、前半は様子見でも悪くないのかなという気持ちでやっていた」(登里享平)。後半勝負に持ち込むための布石を打ち続けていた前半。車屋紳太郎と谷口彰悟のCBコンビのゲームメークから読み取れた、無理せずやり過ごすための巧妙な試合運び。

4.「後半に点を決められても慌てずにやれた。ギアを上げられるだろうなと思っていた」(家長昭博)。指揮官が後半に指示した、ゴールへの道筋を見出すためのポジションチェンジ。そこに込められた狙いと、それによって起きた功罪とは?

5.「それも狙いのひとつやし、(もし潰しに)来なかったときは、僕がターンして仕掛ける。相手を見ながらうまくやれていたと思う」(阿部浩之)、「阿部ちゃんはセンターバックをひきつれて、(味方の)サイドバックをオーバーラップさせるのがうまい。あの瞬間は、モリタ(守田英正)が見逃さずに出せた」(大島僚太)。オーダー通りの完璧な崩し。なぜ2ゴールは、右サイドの攻略から生まれたのか。

6.「自分が落ちたら相手のバランスが崩れる。そこにサイドが入っていく。二人を中に入れさせて、エウソンとノボリに高い位置を取らせる。それで2点取ったのは偶然じゃないと思う」(中村憲剛)。ボールを持たずとも、チームを動かし、相手を釣り出し、そして広島守備陣の綻びを見逃さずに崩す。試合後の中村憲剛が語った、首位攻略法。

 以上、6つのポイントで冒頭部分も含めて約9500文字です。はい、圧倒的な熱量とボリュームでお伝えします・笑。

特にこの試合は、水面下で様々な駆け引きがありましたからね。例えば、この試合の中村憲剛は、2ゴールには直接関与していないものの、まるで詰め将棋でも解くかのように、ボールのないところでチームを動かしながら相手を釣り、そして広島守備陣の隙を作り出す作業を続けていました。

「ボールを持って仕事ができる奴は“一流”。だが、ボールを持たずとも仕事ができる奴は“超一流”ってな!!」

漫画「シュート!」で、天才ゲームメーカー・神谷篤司を評した際のセリフを思い出してしまいましたよ。そのへんの攻防もたっぷり語っておりますので、どうぞお読みください。

なお、プレビューはこちらです。

では、スタート!

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