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「SEE YOU」 (リーグ第36節・セレッソ大阪戦:4-1)

東京駅から新大阪に向かう新幹線に乗り込む時、なぜか自分の頭の中で流れる曲がある。

「ガンバレ〜 みんなガンバレ〜 月は流れて 東へ西へ〜」

 井上陽水の「東へ西へ」という楽曲だ。1992年に本木雅弘がシングル曲としてカバーし、「リゲイン」のCMソングとしてヒットした。なぜだかわからないが、新幹線で関西に向かうとき、この曲のフレーズが一回は頭の中で流れるようになっている。本当に、なぜだかわからない。

 そんなわけで、ヨドコウ桜スタジアムでのセレッソ大阪戦。
リーグ戦は残り3試合。すでに優勝が決まっている川崎フロンターレと、J1残留を決めているセレッソ大阪ということで、本来であれば、注目度もそれほど高くないカードだった。

 ところが試合前夜に大久保嘉人が、今シーズン限りでの引退を発表。
その最初となる試合が古巣である川崎フロンターレということもあり、俄然注目が集まる、特別な一戦になっていた。

 試合前のウォーミングアップ。
フィールドプレイヤーが出てくると、セレッソ大阪のゴール裏からはダンマクが出ていた。

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「嘉人 獲ろうぜ!200G」

サポーターはチャントを歌えないので、スタジアムでは大久保嘉人チャントを大音量で流す演出をしている。セレッソ入団時から歌われていた「君の瞳に恋してる」を原曲にした応援歌だ。

・・・・ああ、そうだった。
セレッソ大阪に復帰していたことで、このチャントも復活していたんだと気づいて、ものすごく懐かしい気持ちが蘇ってきた。

 というのも、自分が20代の頃、アテネ五輪世代やジーコジャパンの代表戦にはよく観戦に足を運んでいたのだ。そのときに現地でたくさん歌ったのが、大久保嘉人のこの「君の瞳に恋してる」のチャントだった。

 特に五輪出場の切符がかかっていた最終戦のUAE戦は印象深い。
勝利が求められる一戦で、貴重な2ゴールを決めたのが大久保嘉人だった。試合後、他会場の結果で五輪切符が決まり、雨の国立競技場で濡れながら喜んだこととか、そんな記憶まで色々と蘇ってきた。

 川崎フロンターレ時代の大久保嘉人の記憶は自分がサッカーライターになってからのものだけど、大久保嘉人のあのチャントを聞いていたら、そんな昔の出来事まで思い出されるのだから、音楽は不思議だ。

 試合前のウォーミングアップを終えると、両チーム達の選手がロッカールームにまばらに戻っていく。そんな中、小林悠はセレッソ側をチラチラと気にしながら歩いているように見えた。

 その視線の先にいたのは、大久保嘉人である。視線に気づいた大久保が笑顔になると、小林はそのまま大久保の元に駆け寄って、談笑していた。

 ともにJリーグを代表するストライカーだ。
それだけではない。川崎フロンターレというクラブのエースFWという看板を背負ってプレーしていた時期もある。

 例えば4年前の2017年。
大久保嘉人が初めてフロンターレから移籍して対戦した味の素スタジアムでの多摩川クラシコ。この試合後、小林と大久保はユニフォーム交換をしている。

 ストライカーという生き方を選んで来た者同士。
多くの言葉を交わさなくとも、深いところで理解できる何かがあり、繋がっているのだろう。この試合前に見せたあのやり取りは、そう感じさせる光景だった。

 この二人の関係性で忘れられないエピソードが一つある。

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