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「もう少しだけ」 (リーグ第38節・横浜FM戦:1-1)

「・・・あっ、少し高い!」

家長昭博の右足から蹴り出されたクロスの軌道は、記者席からはそう見えた。

 だが次の瞬間、自分の視線の先にいたのは、力強く空を舞っているレアンドロ・ダミアンだ。すると、その高くて、ゆっくりとしたボールは、バスケットボールでいう「アリウープ」を決めてもらうときに出す、滞空時間の長いパスのように思えてきた。

 読みとタイミングを外された軌道だったのだろうか。
必死に戻ってきた横浜F・マリノスの岩田智輝とチアゴ・マルティンスのセンターバックコンビは、家長のクロスボールにまるで反応できていなかった。

 誰とも競り合わずに宙を舞っていたダミアンは、空のひとり旅だ。そして自らの最高到達地点で渾身の力を込めて頭でボールを叩きつける。まるで、空中でキャッチしてダンクシュートを決めるかのごとく、である。

 どこかスローモーションで時間が流れていくような感覚に襲われた。
地面で大きくバウンドしたボールは、そこに力強い意思がこもっているかのような軌道でゴールに向かっていく。必死で横っ飛びするGK高丘陽平の手をかすめて、ボールはゴールネットの隅に吸い込まれていった。

「・・・・入った!」

 同時に、アウェイ側の観客席が一斉に揺れた。それまでの時間がずっと苦しかったからこその、それが一気に爆発したようなサポーターの歓喜だった。

 飛行機ポーズでピッチに滑り込んで喜ぶダミアンを、アシストした家長も滑り込んで抱きしめる。味方が駆け寄って歓喜の輪を作る前に、黄色いビブスを着たベンチメンバーが、次々とピッチになだれ込んでいた。

 おいおい。
勝手にピッチに入ったらイエローをもらっても文句は言えない。ヒヤヒヤしたが、結果的に、家本政明主審からのおとがめはなかった。ラストゲームだから大目に見てくれたのかもしれない。

 とにかく、優勝が決まった瞬間みたいな騒ぎだった。
あれだけの歓喜になったのは、単に試合を動かすゴールだったことだけが理由ではないだろう。

■(※追記:12月8日)強さの基準は、麻生グラウンドでの日常と空気感で作られていく。


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