見出し画像

「痛さと嬉しさと心強さと」 (リーグ第30節・湘南ベルマーレ戦:2-1)


「僕のボールロストから始まった失点だったので、何とか自分が流れを持っていきたいと思っていました」

 湘南戦試合翌日のオンライン会見に応じた旗手怜央は、あの試合中、自分が流れを変えていくという闘志をみなぎらせていたことを証言している。

 自身が認めたように、前半に生まれた失点は左サイドバックの旗手のボールロストから始まったものだった。

 湘南の採用する5-3-2の守備ブロックは、その構造上、相手のサイドバックを捉まえにくい欠点がある。システムの噛み合わせ以上、自分たちの2トップの脇や3ボランチの脇のスペースで保持されると、そこは守備が届かないことが多くなる。少なくとも、アプローチが遅れる場所である。

 川崎フロンターレの視点で言えば、両サイドバックはフリーでボールを持ちやすくなる。つまり、この場所で組み立ての起点を担いながら、崩しのアクセントを作ることができれば、ゲームの主導権も握りやすくなるというわけだ。

 ただ前半は、それがうまくいかなかった。むしろ湘南は、フロンターレのサイドバックがボールを持った時を奪いどころにすらしていた印象だった。

 前半に感じていた難しさを旗手怜央はこう振り返る。

「ビルドアップの部分で前に運ぶ、前につける難しさを感じました。湘南もすごくブロックを作って、自分たちの決めた位置から(プレスを)かけてきた。それがすごく自分たちからすれば厄介でした。前半は相手のやりたいことをやらせてしまったなと思います」

 フロンターレのビルドアップの時、2枚のセンターバックには湘南の2トップがつく。これで数的同数だ。そこでサイドバックに出すと、今度は湘南のインサイドハーフがかなり素早く横にずれて、アプローチをかけてきた。この対応がかなりクリアだった。旗手の言う「自分たちの決めた位置から(プレスを)かけてきた」と言うのがこのラインなのだろう。
 
 サイドバックにプレッシャーがかかること、さらに普段とはシステムを変えたことで、インサイドハーフへのパスコースが少なかったこともあり、サイドバックは窮屈にされた。サイドバックが縦につけても、宮城天も遠野大弥も相手のウィングバックに張り付かれていて、なかなか前を向いて仕掛けられなかった。

 そんな展開だからこそ、サイドバックの自分が局面を打開しなくてはいけないと思っていたのだろう。ボールを持った旗手怜央が対面した相手を剥がして展開しようとしたまさにその瞬間、相手に引っ掛けられてしまい、ボールロスト。低い位置での奪われたことでショートカウンターを受けてしまう。その後、一回はリカバーしたものの、逆サイドで再びセカンドチャンスを与えた結果、ニアゾーンを崩されて失点を喫してしまう。逆サイドからカバーに入っていた旗手は、ゴールネットを掴んで悔しがっていた。

 左サイドだけではない。
ただこの日の前半は、右サイドバックの山根視来の動きと判断も精彩を欠いていた。フィールドプレーヤーではACLからの公式4連戦を全部出続けているただ一人の男である。

いくらタフガイだとはいえ、この連戦で、もし疲れていなかったら、その方がどうかしている。彼も彼でサイドの局面をドリブルで剥がそうとするも、何度か引っかかり、逆にピンチを招いてしまった。チョン・ソンリョンのセーブでなんとか耐えるが、明らかに流れは悪かった。

 0-1で迎えた後半。
旗手のポジションはインサイドハーフに変わった。

どうやってゴールを奪ってやるか。もちろん、気持ちだけでゴールが奪えるわけではない。相手の構造を分析しながら、どこを突けばゴールが生まれるのか。冷静に見据えていたという。

「前半からバックをやっていた時に、自分は90分のうちにインサイドハーフをする時間はあると思っていました。どういうところを狙えばゴールが生まれるのかを意識していました。あらかじめミーティングで、(湘南守備陣は)高さがないと言われていた。バックラインと中盤のスペースは、なかなか戻れないとも聞いていた」

 逆襲の後半は、その答え合せをする45分でもあった。

ここから先は

6,893字

¥ 300

ご覧いただきありがとうございます。いただいたサポートは、継続的な取材活動や、自己投資の費用に使わせてもらいます。