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「蒼い月に吠える夜 」(リーグ第28節・ヴィッセル神戸戦:3-1)

  山根視来が、吠えていた。

 自らの渾身のクロスが、現役ベルギー代表DFに当たってゴールネットに吸い込まれた後、彼は咆哮しながら力強いガッツポーズを2度繰り出していた。

どちらかと言えば、ストレートに感情を出すタイプではある。でも、きっと、そこには彼の中で抱えていた何かもあったのだろうと思った。

 この伏線となっていたと思しき場面がある。
68分、1-1で迎えた後半の飲水タイムでのことだ。

選手たちがベンチに戻っていく様子を眺めていると、他の選手よりも遅れて、ゆっくりと歩いている川崎フロンターレの選手の存在がふと目に止まった。

 目を凝らしてみるまで誰だかわからなかったが、それが右サイドバックの山根視来だった。

 どこか足を引きずりながら歩いているようにも見える。自分の持ち場である右サイド奥から対角線の位置しているホーム側のベンチまで戻る途中、足に巻いていたと思われるテーピングを剥がしながら歩いていた。痛々しいのは一目でわかる。飲水しているチームメートの輪に加わったのは、山根視来が一番最後だった。

 その10分後、彼は珍しく途中交代でベンチに下がっている。
試合後のオンライン会見で、鬼木監督は「体力的なところで、ミキのところが痙攣を起こしていました」とその理由を明かしている。

 無理もないだろう。日本代表のメンバーとして中東の遠征を終えてからチームに合流し、ACLの蔚山現代戦では120分を走り抜いている。帰国後に迎えたこのリーグ戦も、過酷な連戦を休むことなくフル稼働中。疲労困憊なのは、誰の目にも明らかだった。

 試合翌日のオンライン会見で鬼木監督にあらためて聞いてみると、より詳しい事実がわかってきた。そもそも、この日の山根視来は、試合に出れるかどうかの判断が難しい状態だったのだという。

「(交代は)足のところの痙攣でしたが、実際には違う箇所の痛みもありました。昨日のゲームも、スタートで使うかどうか。ゲームに入れるのか。ギリギリまで、やるかやらないか・・・・それぐらいのところまでなっていました」(鬼木監督)

 試合前から満身創痍だったのだ。
それでも、この試合で山根視来をスタートから起用したのことには、ある理由があったのだという。

 鬼木監督が明かす。

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