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不易流行|急がば回れ不便益|2022.1.23

 川上浩司(かわかみひろし)京都先端科学大学教授は「不便益」という概念を提唱している。「不便だけど益がある。不便だからこそ益がある」事象を世界中から集め検証、実験を繰り返す。人工知能や進化論的計算手法をシステムデザインに応用、便利の追求で見過ごされて来たコトから発想しているそうだ。京都大学の浅利美鈴研究室「かばんの中のプラ」では、学生のカバンの中のプラスティックを数えると平均80以上のプラスティックが出てきた。これを少しずつ減らしていけるかどうかの実験が繰り返されている。2019年日本放送協会「 “ノープラ生活”やってみた プラスチックごみ削減の挑戦」ではディレクターが一ヶ月プラスティックなしの生活を試みたが社会生活が成立しないということがわかった。どれも社会の中に在る便利を認め、それを認知し、排除を試みると、挫折して行かざるを得ないのだが、そこに「益」という見返りを付加する川上教授の発想の転換は新しい。

 冬季農家の欠かせない作業に燻炭(くんたん)づくりがある。お米を籾から籾殻を取り除いた際に発生する籾殻(もみがら)をいぶし焼きして炭化させたもの。一年間頑張ってくれた畑にご褒美としてすき込んであげる。炭化したこの小さな粒子には孔がたくさん空いていて、土中の通気性や保水性が向上し、好気性微生物が増えたり、根ぐされを防止してくれる。最初は灰になってしまったりと難しいけど、慣れてくると別の作業の片手間に作れるようになる。今もいぶし焼きの傍でこの文章を執筆ているところだ。

 農のある暮らしをはじめて10年。試行錯誤の連続だが、自分で一切合切を行うと色んなことがわかってくる。同じ畝では、次の年同じ作物を植えても上手く育たない。植物は光合成をし、土の中から色んな栄養素を大量に吸収する。吸収し尽くしてしまう。理科の授業で習う極めて初歩的なことだが、実際失敗してみないとわからない。如実に結果に反映されるから恐ろしい。昔から農家の人はそれが分かっていた。だから一年ごと栽培する作物を変え畝を移動、三年経ったら同じものを植えるようにした。大変面倒な作業なのだが、冬の間に土のメンテナンスをし、休ませたり、発酵させたり、暗渠を掘ったり、できうる限りの手間をかけ養生する。農のある暮らしの手間は不便だけど大きなご褒美がある。その行為の結果が「実り」として3年後に結実する。

 資本主義社会では、極めて均一性の高いデプリカントを大量に生産し、運び、売り、余らせて、処分してきた。しかも結果をすぐに欲しがる。一年の決算、いや半年、毎月、株主のために好結果を報告するために仕事をする。

 不便の結果得られる益は、3年後の収穫やはたまた地球の持続可能という途方もない時間軸の中でこそ得られる利益のものが多い。究極的には地球の寿命46億年が輝いていたかどうかが「益」の時間軸なのかもしれない。決して、報告書のタイミングに合わせてマーベルコミックのヒーローよろしく出現してはくれないのだ。そういう意味で「不便益」は、時間を味方につけた超能力者にだけ与えられた特権なのかもしれない。「急がば回れ」よく言ったものである。あああ、タイムマシンが欲しい。先ず三年ぐらいのものでいい。

【参考資料】
不便益システム研究所
かばんの中のプラ
“ノープラ生活”やってみた プラスチックごみ削減の挑戦

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