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オールの小部屋から⑤ 東海林さだおさんのこと

 ちょっと遅めの夏休みをとり、香川県坂出市の実家に帰省していました。コロナ以来、3年半ぶりの里帰りです。仕事抜きの〝旅〟というのがそもそも久しぶり。家族と一緒に飛行機に乗るのも何だか新鮮で、楽しくリフレッシュできました。
 私にとって〝旅〟といえば漫画家の東海林さだおさん。おそらく担当した執筆者の中で、もっともたくさん一緒に〝旅〟した人です。大島にくさやを食べにいったり、乳頭温泉郷で混浴めぐりをしたり、中国人向け温泉ツアーに潜入取材したり……。「男の分別学」を担当していた10数年前(「I青年」としてけっこう登場してます)は、毎月のように東海林さんとどこかへ出かけていました。間違いなく家族より〝外泊〟回数は多く、そういえば妻が1人目の子を出産した記念すべき日も、東海林さんと群馬の山奥の〝半自炊の宿〟でご飯を作っていて、赤ちゃんのもとへ駆けつけることができませんでした。

東海林さだおさん(©文藝春秋)

 さて、そんな東海林さんが入院しました。
 第一報をもたらしてくれたのは、現在、オール讀物で「男の分別学」を担当するSさん。入社2年目の女性編集者です。
「東海林さん、目の具合が悪くて入院されたそうです。『タンマ君』もお休みするそうです」
 こうSさんが教えてくれたのは、6月末のこと。
 85歳という年齢もあります。大げさでも何でもなく、編集部に激震が走りました。幸い、すぐに入院先の東海林さんと電話がつながり、
「目はもう直ったそうで、声もお元気でした! でも『男の分別学』はお休みです!」
 と、ホッとした様子のSさんが教えてくれました。
 その後、2週間の入院をへて、無事ご退院。私たちもオール8月号の校了を終えて、7月末、仕事場へお見舞いに行くことにしました。
 部屋に入った我々に、
「はい、どうぞ」
 東海林さんが冷蔵庫から出してくれたのは、缶コーヒー。これ、東海林さん流のいつもの〝おもてなし〟なのですね。10年くらい前まではリポビタンDとかチオビタなどの栄養ドリンクを出してくださっていたのですが、
「女性の担当者に〝セクハラ〟と思われないように」(東海林さん)
 との配慮で、缶コーヒーに変わったのだとか。
 すっかりお元気そうな様子を見て安心した私たちは、ついつい雑誌編集者の習性でインタビューを開始。病院生活のあれこれを尋ねると、東海林さんの口調もしだいに熱をおび、入院中につけたと思しきメモ帳(イラスト入り)を取り出して、面白おかしく話してくれます。
 こうしてできあがったのが、オール9・10月合併号に掲載した「脳梗塞腹ペコ入院記」。インタビューではありますが、できるだけいつもの「男の分別学」っぽく楽しんでいただけるよう工夫しました。東海林さんの描きおろしイラスト4点も必見!
 さらにSさんは、東海林さんの承諾をえてインタビューの一部を録音し「本の話ポッドキャスト」の番組「85歳の現役漫画家・東海林さだおさんが語る 緊急入院の舞台裏」をつくりました。

 退院直後の東海林さんの肉声はもちろん貴重なものですが、62歳の年齢差(!)を感じさせないSさんの堂々とした取材ぶりも、ぜひみなさん、お聴きいただけたらと思います。
 ちなみにSさん、同じ号で、東海林さんのインタビューのほか、永井紗耶子さん×三浦しをんさんの直木賞記念対談「歴史をアップデート!」大地真央さんのインタビュー「中島ハルコに会いに来て!」の原稿のまとめも担当しています。文春の編集者は〝自分が取材した記事の原稿は自分が書く〟のが基本。文章にはおのずから担当した編集者の個性や熱気が反映されます。
 オール讀物は一見、作り手も読み手も年齢層高めの雑誌のように思われがちですが、20代の編集者もこうして頑張って作っております。ぜひ、書店で手にとって、若い情熱にエールをおくっていただけませんか。

オール讀物2023年9・10月号 141頁より

 最後にもう1つ。東海林さんから「よく読み、よく書く(描く)こと」が健康の秘訣と聞き、読者のみなさんから「私の読書健康法」を募集することにしました。すでに力作が届き始めています! noteをご覧の方からの投稿も楽しみにお待ちしております! 11月10日締切です。

(オールの小部屋から⑤ 終わり)

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